【年間300億円の赤字】日本の食卓に並ばない「ナゾの輸入米」の正体
「日本はお米が余っているのに、なぜ海外から輸入しているの?」
ニュースを見て、そう感じたことはありませんか?実は、政府が備蓄しているお米とは別に、私たちの食卓にはほとんど並ばない「ナゾの輸入米」が毎年大量に日本へ運び込まれています。
その量、実に年間約77万トン。
さらに驚くべきことに、その多くは国内で大幅な赤字を出して売却されたり、費用をかけて海外へ援助されたりしており、私たちの税金が年間約300億円も使われているのです。
この奇妙な仕組みの正体は**「ミニマム・アクセス(MA)米」**。この記事では、このMA米とは一体何なのか、そして私たちの知らないところで一体何に使われているのかを、分かりやすく解説します。
そもそも「ミニマム・アクセス米」とは?
ミニマム・アクセス(MA)米とは、1995年のWTO(世界貿易機関)協定に基づいて、日本が輸入を「約束」したお米のことです。
簡単に言えば、**「国内でお米が足りているか、余っているかに関わらず、最低限(ミニマム・アクセス)これだけの量のお米は、毎年必ず海外から輸入します」**という国際的な公約です。
そのため、国内の需要とは関係なく、毎年約77万トンものお米が、アメリカ、タイ、オーストラリア、中国などから輸入され続けているのです。
【図解】年間77万トン!ナゾの輸入米の4つの行き先
では、その大量の米は一体どこへ消えているのでしょうか?主食用は約10万トンとごくわずか。残りの約67万トンの主な4つの行き先を見ていきましょう。
行き先①:お菓子や焼酎、お味噌に変身する「加工用」(約17万トン)
輸入されたMA米の一部は、私たちの身近な加工食品の原料になっています。
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主な用途: 味噌、焼酎、日本酒、米菓(せんべいなど)
お米を原料とする様々な食品メーカーに販売され、製品の一部として活用されています。
行き先②:家畜のごはんになる「飼料用」(約51万トン)
最も多くのMA米が向かうのが、この「飼料用」です。つまり、牛や豚、鶏といった家畜のエサとして利用されます。
ここで、この仕組みの最も大きな問題点が現れます。
例えば、1トンあたり約8万円で輸入されたお米が、飼料用としてわずか2万円で販売されます。つまり、1トンあたり6万円もの大赤字が発生しているのです。
この赤字は、もちろん私たちの税金などから補填されています。高い値段で輸入する義務を果たしつつ、国内の畜産農家には安価な飼料を供給するという、非常に政策的な措置なのです。
行き先③:費用をかけて送られる「海外援助用」(約5万トン)
食糧不足に悩む国々への人道支援としても、MA米は活用されています。しかし、これもまた大きな財政負担を伴います。
輸入にかかった費用(例:8万円/トン)に、さらに海外への輸送費(例:2万円/トン)が上乗せされ、合計で1トンあたり10万円もの負担が発生します。
善意の援助ではありますが、元はといえば義務で輸入したお米であり、「買って、さらにお金をかけて渡す」という複雑な構図になっています。
行き先④:その他(バイオエタノールなど)と「在庫」
上記以外にも、過去にはバイオエタノールの原料として利用されたり、練炭の材料になった実績もあります。
そして、すぐには使われなかったお米は「在庫」として保管されます。もちろん、この**在庫の保管料(年間1トンあたり約1万円)**も、政府の負担、つまり税金で賄われています。
この仕組みが抱える「2つの大きな問題」
ここまで見てきたように、MA米の運用は、主に2つの大きな問題を抱えています。
問題1:巨額の財政負担(年間約300億円の赤字)
繰り返しになりますが、最大の課題は税金への負担です。
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飼料用の「売却損」
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海外援助用の「輸送費上乗せ」
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長期保管にかかる「在庫管理費」
これらを合計すると、年間で約300億円もの国費がMA米の処理のために使われているのが現状です。
問題2:国内の飼料用米生産との競合
近年、日本では水田を有効活用するため、政府が補助金を出して主食用米から「飼料用米」への転換を進めています。
しかし、一方で赤字を出してまで大量の輸入米を飼料用に回しているため、「国内農家を守るための政策」と「国際公約を守るための政策」が、結果として競合してしまうという矛盾も指摘されています。
まとめ:国際公D約と国内事情の板挟みが生んだ複雑な仕組み
今回は、あまり知られていない「ミニマム・アクセス米」について掘り下げてみました。
ポイントをまとめると以下の通りです。
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MA米は、日本の国内事情とは関係なく、国際的な約束で毎年必ず輸入しなければならないお米である。
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輸入された77万トンのうち、大半は主食用ではなく、飼料用や加工用、海外援助用に回される。
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特に飼料用では、輸入価格を大幅に下回る価格で売却され、その処理のために年間300億円もの税金が使われている。
MA米制度は、日本の貿易相手国との関係を維持し、国際社会の一員としての責任を果たすために不可欠な仕組みです。しかしその一方で、私たちの税金に大きな負担をかけ、国内の農業政策にも影響を与えるという、非常に複雑で難しい課題を抱えています。
普段何気なく食べているお米の裏側で、このような壮大な仕組みが動いていることを知ると、食や税金に対する見方が少し変わるかもしれません。
参考リンク(以下に農水省のホームページのリンクを貼っておきます)
ミニマムアクセス米に関する報告書。農水省 pdf資料