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日々の雑感

【なぜ?】農地と宅地の値段、ここまで違う3つのカラクリ

「マイホームを建てるために土地を探しているけど、宅地って本当に高いなあ…」 「あれ、でも地図を見ると、すぐ隣の畑や田んぼは驚くほど安い値段で売られていることがあるぞ?」

こんな疑問を持ったことはありませんか?🏠

同じ日本の土地なのに、なぜ家が建つ「宅地」と、作物を育てる「農地」とでは、これほどまでに値段が違うのでしょうか。時には、ゼロがいくつも違うほどの価格差があります。農業協同組合のの2020年の記事で、農地は平均すると10アールあたり、約100万円、一坪だと3千円くらいです。

www.jacom.or.jp

その理由は、単に「畑だから」という単純なものではありません。そこには、日本の法律、農業の現状、そして人口の問題が複雑に絡み合っています。

今回は、この「なぜ?」をスッキリ解決するために、農地の値段が宅地より圧倒的に安い3つの大きな理由を、誰にでも分かるように解説します!

【ご注意】本記事は、土地の価格に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の土地の購入や不動産投資を推奨するものではありません。土地の売買や農地転用に関する最終的な判断は、必ず行政書士司法書士、不動産の専門家にご相談の上、ご自身の責任において行ってください。

 

理由① 厳しい法律の壁!「農地法」という最強のガードマン ⚖️

 

農地の値段が安い最大の理由は、「農地法」という法律で、その使い道が厳しく制限されているからです。

一言でいうと、「農地は、原則として農業にしか使ってはいけない」というルールです。

  • 誰でも買えるわけではない 家やマンション用の「宅地」は、基本的にお金さえあれば誰でも自由に売買できます。しかし、「農地」を買えるのは、原則として「農業をする人(農家)」「農業をする法人」だけ。しかも、市町村の農業委員会の厳しい審査と許可が必要です。農地取得方法は以下のサイトが詳しいです。

    https://blueberry-labo.jp/agricultural-land-acquisition/

    趣味で家庭菜園をやりたい、というレベルではまず許可は下りません。農林水産省のサイトに詳細が見れます。

    農地をめぐる事情について:農林水産省

  • 勝手に家は建てられない 「安い農地を買って、自分の家を建てよう!」と思っても、それはほぼ不可能です。農地を宅地など農業以外の目的で使うことを**「農地転用」**と言いますが、この許可を得るハードルが非常に高いのです。特に、優良な農地であればあるほど、国は食料生産の基盤を守るために転用を認めません。

つまり、農地は「買える人」と「使い道」が極端に限定されているため、自由に家を建てられる「宅地」に比べて、欲しい人が少なくなり、価格が低く抑えられてしまうのです。


 

理由② 農業の厳しい現実…「儲からない」から価値が上がらない 📉

 

土地の価格は、その土地が生み出す「収益性(どれだけ儲かるか)」に大きく影響されます。

  • 需要と供給のアンバランス 残念ながら、日本の農業は厳しい状況に置かれています。提供された資料にもあるように、米価をはじめとする農産物価格は低迷し、農業だけで安定した高い収益を上げるのは簡単ではありません。以下の報告書の引用を見てください。「(一社)全国農業会議所『令和6年田畑売買価格等に関する調査結果』より引用」「

    令和6年田畑売買価格等に関する調査結果(要旨) 令 和 7 年 3 月 2 1 日 (一社)全国農業会議所 純農業地域の農地価格は 30 年連続で下落 下落要因は「農地の買い手の減少」が中田、中畑で4割

    中略

    価格の下落要因としては、農業への先行き不安や貸借の増加等による「農地の買い手の減 少や買い控え」 (中田 35.3%、中畑 38.1)が最も大きい。次いで、中田では「後継者不足」 (18.7)、「米価など農産物価格の低迷」(13.0)(図3)、中畑では「後継者不足」(21.8)、 「離農による過疎化」(12.6)(図4)が続いている。

  • 買い手(農家)の減少 さらに深刻なのが、農業の担い手不足です。農家の方々の高齢化は進み(平均年齢は約69歳!)、後継者もなかなか見つからないのが現状です。 その結果、農業を拡大しようと考える若い世代や、新たに農業を始めたいという人が少なく、「農地を買いたい」という需要がどんどん減っています。資料によれば、農地価格が30年以上も下がり続けている最大の理由は、この「農地の買い手の減少」なのです。以下の記事が詳しいです。

    minorasu.basf.co.jp

「その土地を使ってもあまり儲からない」し、「そもそもその土地を買いたいと思う人自体が減っている」。これでは、土地の値段が上がるはずがありませんよね。


 

理由③ 売りたいけど売れない「負の資産」化 👨‍🌾

 

理由①と②の結果、需要と供給のバランスが完全に崩れてしまっています。

  • 売り手: 高齢化で引退する農家が増え、「農地を売りたい(手放したい)」人はたくさんいる。

  • 買い手: 農業の担い手は減っており、「農地を買いたい」人はごくわずか。

売りたい人がたくさんいるのに、買いたい人がほとんどいない。これが、農地価格が低迷する直接的なメカニズムです。

都市部に住む子ども世代が田舎の農地を相続した場合、自分たちで農業はできず、かといって法律のせいで簡単に売ることも貸すこともできない。結果として、管理費や固定資産税だけがかかる「負の資産」になってしまうケースも増えています。こうなると、「タダでもいいから誰かにもらってほしい」という状況さえ生まれかねません。農水省の荒廃農地に関するpdfファイルのリンクです。

https://www.maff.go.jp/j/nousin/tikei/houkiti/attach/pdf/index-35.pdf


 

まとめ

 

農地の値段が宅地に比べてとんでもなく安い理由は、

  1. 【法律】「農地法」によって、農家しか買えず、農業にしか使えないから。

  2. 【収益性】農業経営が厳しく、土地から高い収益を期待できないから。

  3. 【需要】農業の担い手が減り、そもそも「買いたい」という人がほとんどいないから。

これらの理由が複雑に絡み合い、農地の経済的な価値を押し下げています。

日本の食を支える大切な農地。その価値を守るためのルールが、皮肉にも市場での価格を低くしている、というのが日本の農地が置かれた現状なのです。

もし、あなたが具体的に農地の購入や転用を検討している場合は、まずは市町村の「農業委員会」の窓口に相談することから始めるのが良いでしょう。