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日本の食料自給率38%は本当に危機か? 数字の“カラクリ”と未来の食を徹底解説

「日本の食料自給率は、わずか38%」

この数字をニュースなどで見聞きし、不安を感じたことがある方も多いのではないでしょうか。

「このままでは、有事の際に日本は飢えるのでは……?」

しかし、そう結論付けるのはまだ早いかもしれません。なぜなら、この「38%」は一つの指標にすぎず、実は**「58%」**という、もう一つの自給率も存在するからです。

この違いは一体何なのか? そして、私たちが本当に注目すべき点はどこにあるのか? この記事では、日本の食料自給率にまつわる統計の“カラクリ”を紐解きながら、未来の食の安全について分かりやすく掘り下げていきます。


 

第1章:「38%」と「58%」――2つの自給率が語る異なる現実

 

日本の食料自給率には、主に2つの指標があります。

  • カロリーベース総合食料自給率(38%):命を守る緊急時の視点 よく報道される「38%」という数字がこれです。国民一人一日当たりの供給カロリーのうち、どれだけを国産でまかなえているかを示します。(2022年度)

    この指標は、万が一、輸入が完全に途絶えたときに「日本国内の生産力だけで、国民がどれだけ食べて生きていけるか」という、食料安全保障上のストレステストの観点から重視されています。

  • 生産額ベース総合食料自給率(58%):農業の経済的な視点 一方の「58%」は、食料を金額(円)で評価し、国内で消費される食料の総額のうち、国産が占める割合を示します。(2022年度)

    こちらは国際的にも広く用いられる指標で、野菜や果物、付加価値の高い畜産物など、日本の農業が持つ経済的な実力や競争力を評価するのに適しています。


 

第2章:なぜ20ポイントも差があるのか?統計の「カラクリ」

 

この大きな差が生まれる理由は、主に2つあります。

① 食生活の変化とカロリーの偏り かつての主食だった「米」(自給率99%)の消費量が減り、代わりに輸入に頼る小麦(パン・麺)や油脂類の消費が増えました。低カロリーな野菜や魚介類に比べ、高カロリーな油脂類などの輸入割合が増えたことが、カロリーベース自給率を押し下げる一因です。

② 「国産品」でも純国産ではない!?飼料の落とし穴 スーパーに並ぶ「国産」の牛肉や豚肉、鶏卵。実は、これらの家畜が食べる飼料(トウモロコシなど)の多くが輸入品であるため、カロリーベース自給率の計算上、その分は「国産」としてカウントされません。

  • 日本の飼料自給率26%(2022年度)

  • 鶏卵:品目別自給率(重量ベース)は97% → カロリーベースではわずか12%

  • 牛肉:品目別自給率(重量ベース)は34% → カロリーベースでは9%

この仕組みは、「もし飼料輸入が止まったら、家畜も育たず、肉や卵も生産できない」という厳しい現実を反映しており、日本の食料供給の脆弱性を浮き彫りにします。


 

第3章:どこが強くて、どこが弱い?日本の食料の実態

 

品目ごとに見ると、日本の食料事情の「強い分野」と「脆弱な分野」は明確です。

◎ 強い分野(高自給率

  • 米:99%。日本の食料安全保障の根幹。

  • 野菜:75%。多くを国内で供給。

  • 鶏卵:97%(重量ベース)。生産体制は国内で確立。

  • 魚介類:54%。減少傾向だが、まだ日本の重要な食料源。

△ 弱い分野(低自給率

  • 小麦:16%。パン・麺類の多くは輸入に依存。

  • 大豆:6%。豆腐用などは国産も多いが、油・飼料用が圧倒的に輸入。

  • 油脂類:3%。原料のほぼ全てを海外に依存。

特に、家畜の飼料食用油の原料となる作物の海外依存度の高さが、日本の大きな弱点となっています。


 

第4章:G7最下位は問題?国際比較で見る日本の「現在地」

 

「日本の自給率はG7で最下位」とよく言われます。しかし、広大な農地を持つアメリカやカナダのような農業大国と比較するのは、あまり意味がありません。

むしろ、国土が狭く山がちな、以下のような国と比較するのが実態に近いでしょう。

  • 韓国(カロリーベース自給率):約45%

  • 台湾(同上):約31%

  • 日本(同上):38%

これらの国々も、日本と同様に工業化が進み、食料の多くを輸入に頼っています。日本の自給率は、こうした地理的・経済的条件の似た国々と比較すると、必ずしも「異常に低い」とは言えないのです。


 

第5章:日本の“アキレス腱”――飼料輸入に依存する畜産業

 

現在の日本の畜産業は、いわば“海外の土地を借りて”成り立っています。飼料となるトウモロコシや大豆粕のほとんどを、アメリカやブラジルからの輸入に頼りきっているからです。

この構造は、平時には効率的ですが、産出国での干ばつや不作、国際情勢の緊迫化といった地政学的リスクが起これば、一気に脆弱性を露呈します。


 

第6章:何をすべきか?未来のための4つの戦略

 

これからの日本の食を守るために、以下のような多角的なアプローチが求められています。

  1. 国内生産の強化 国産トウモロコシや飼料用米の生産拡大。水田をフル活用した小麦・大豆の作付け推進。

  2. 強靭な食料システムの構築 輸入先の分散化、備蓄体制の強化、不測の事態に備えた物流網の整備。

  3. 消費者の行動変容 国産の小麦や米粉を使ったパンを選んだり、ごはん中心の食生活を見直したり。私たち一人ひとりの選択が、国内の生産者を支える力になります。

  4. 国際的なパートナーシップ強化 食料供給の安定のため、輸入相手国との信頼関係の構築や農業分野での国際協力も不可欠です。


 

まとめ:食卓の未来を守るために、私たちができること

 

日本の食料自給率38%という数字は、確かに警戒すべきシグナルです。しかし、それは単なる数字ではなく、戦後の食文化の変化と経済的合理性を追求した結果でもあります。

重要なのは、自給率の数字の上下に一喜一憂することではなく、どの品目をどれだけ海外に依存しているのか、有事の際に供給体制は機能するのかという「食料安全保障の質」を考えることです。

日本の食卓は、世界の畑と深くつながっています。その現実を正しく知ることが、未来の食を守る、確かな第一歩になるのではないでしょうか。

 

参考リンク 農水省のWEBサイトよりpdf資料

令和4年度、食料自給率、食料持久力指標について


今日の一句

農業を 担う人減る この国に 未来を見つめ 自ら作る