農地問題のヒーローは「会社」だった?日本の荒れ地を救う『農業法人』のすごい実力
これまで、耕作放棄地対策の切り札「農地バンク」が、成功地域と停滞地域で明暗を分けている現実を見てきました。では、その「成功地域」で、一体”誰が”活躍しているのでしょうか?
その答えこそ、農業をビジネスとして展開する「農業法人」です。農水省も積極的に農業法人の施策を進めています。
彼らこそ、農地バンクがまとめた広大な土地を意欲的に借り受け、荒れ地を収益性の高い農地に変える力を持つ、まさに「変革の担い手」。
この記事では、日本の農業の未来を握るキープレイヤー「農業法人」のすごさと、彼らが直面するリアルな課題に迫ります。
農地バンクが頼る「最強のパートナー」、その名も農業法人!
なぜ農地バンクは、農業法人をこれほどまでに必要としているのでしょうか?それは、彼らが個人農家にはない、圧倒的な強みを持っているからです。
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② 専門知識:最新の栽培技術やデータ分析を取り入れ、効率的で質の高い農業を実践するノウハウを持っています。
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③ 組織力:複数の農地を管理し、生産から販売までを計画的に行う経営能力があります。
一言でいえば、農業法人は「農業でしっかり稼ぐ」ことを目的としたプロ集団。農地バンクにとって、彼らほど頼りになる「お客さん」はいないのです。
荒れ地が宝に!農業法人のすごい“復活術”4パターン
農業法人は、農地バンクを通じて手に入れた土地を、驚くべき方法で収益性の高い資産に変えています。その具体的な事例を見てみましょう。
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【高収益化】荒れ地を人気ブランド野菜の畑に! 千葉県では、法人が放棄地を再生し、大規模なネギ畑を確立。広島県では、食品会社が自社で使うニンジンやキャベツを栽培し、安定したサプライチェーンを築いています。
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【6次産業化】作るだけで終わらない!加工・販売まで 作物を育てる(1次)だけでなく、それをジュースやジャムに加工し(2次)、自社のレストランや直売所で販売する(3次)。この「1×2×3=6次産業化」で、付加価値を飛躍的に高めています。
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【二刀流】農業+太陽光発電でダブル収入! 作物を育てる畑の上に太陽光パネルを設置する「ソーラーシェアリング」。農業収入と売電収入の二重の収益で、採算が合わなかった土地を蘇らせる革新的なモデルです。(浜松市、宮城県など)
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【自給率UP】家畜のご飯も自分で作る! 千葉県の酪農家は、バンクで確保した放棄地で牛のエサとなるトウモロコシを栽培。輸入飼料に頼らずコストを削減し、経営の安定化に成功しています。
「理想の相棒」のはずが…農業法人が抱えるリアルな不満
しかし、この強力なパートナーシップも、順風満帆ではありません。農業法人の多くが、農地バンクや行政の仕組みに対して、深刻な不満を抱えています。
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不満①:とにかく仕事が遅い! ビジネスのスピード感で動く法人にとって、役所仕事のペースはあまりにも遅すぎると感じられています。
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不満②:土地がデコボコ・未整備! これが最大の課題です。ある調査では、なんと**71.9%もの法人が「バンクの土地は基盤整備が進んでいない」**と回答。せっかく広い土地を借りられても、結局は自分たちで使える状態に整備するコストと手間がかかっているのです。
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不満③:ニーズと土地が合わない! 「借りたい土地はこういう土壌なのに…」といった、法人の具体的なニーズと、バンクが提供する土地の条件が合わないケースも少なくありません。
結論:農地バンクは「乗り物」。本当にすごいのは「運転手」だった
ここまで見てくると、一つの結論が浮かび上がります。
農地バンクの成功は、農業法人の存在にほぼ完全に依存しているということです。どんなに立派な「乗り物(農地バンク)」があっても、それを乗りこなし、目的地へ向かう優秀な「運転手(農業法人)」がいなければ、ただの鉄の箱にすぎません。
そして、その優秀な運転手が「この道はデコボコで走りづらい!(基盤整備が不十分)」と悲鳴を上げているのが今の状況なのです。
じゃあ、これからどうすればいいの?日本の農業が進むべき2つの道
この現実を踏まえ、日本の農業政策は、地域の実情に合わせた「二つの道」を同時に進む必要があります。
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道①:元気な地域はもっと元気に!【パートナーシップの深化】 法人という優秀な運転手がいる地域では、彼らがもっと速く、快適に走れるように「高速道路(基盤整備)」をしっかり整備するべきです。「土地は用意したから、あとはよろしく」ではなく、「すぐに耕せる最高の状態」で土地を引き渡す。行政のスピードアップも不可欠です。
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道②:厳しい地域は発想の転換を!【戦略の転換】 そもそも運転手(担い手)がいない中山間地域で、無理に農地バンクという車を走らせようとしても意味がありません。ここでは、車以外の乗り方、例えば「林業」や「環境保全」、「ニッチな特産品づくり」といった、全く異なるアプローチに切り替える勇気が必要です。
農業法人は、日本の農業の未来を切り拓く希望の光です。その光をさらに輝かせるために、そして、光の届かない場所に別の灯りをともすために。私たちは今、より現実的で、賢い戦略を描くべき時に来ています。
参考ウェブサイト
https://www.pref.chiba.lg.jp/noushin/kousakuhouki/documents/zireisyuu.pdf
https://www.town.osakikamijima.hiroshima.jp/material/files/group/5/h23reaf.pdf
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