中城ふみこの母としての深い愛情がうかがえる短歌を紹介します。20歳で結婚し4人の子供さんを産み育てました。これらの歌で、子どもへの愛情や責任感を赤裸々に描いています。
1.わが児(こ)らの手を握りしときああ熱きもの流るる如くわが身をめぐる
(子どもたちの手を握ったとき、ああ、熱いものが流れるように私の体をめぐる)
子どもの小さな手を握ることで、母親としての愛情が溢れ出る感覚を表現しています。手を通じて伝わる温もりは、単なる温度ではなく、生命の尊さや親子の絆を象徴しているように感じられます。
2.抱きしめてわが児(こ)の重さよああ愛しこの小さき命をいかに守らむ
(抱きしめると、子どもの重さを感じる。ああ、愛しいこの小さな命を、どのように守ったらよいのだろうか)
子どもを抱きしめたときに感じる「重さ」は、物理的なものだけでなく、その存在の大切さや母親としての責任の重さを示しています。母として、子どもの未来を守りたいという強い願いが込められています。
3.子を産みて知る親ごころの深さをよああわが胸に満ちるこの愛
(子を産んで、親心というものの深さを知る。ああ、私の胸にこの愛が満ち溢れる)
親になって初めて、自分自身の親の愛情の深さを理解するという気づきを歌っています。「胸に満ちるこの愛」という表現には、愛が尽きることなく、限りなく広がる感覚が伝わります。
4.わが児らの寝顔を見ればああ平和この世のすべてがつつましきごとく
(子どもたちの寝顔を見ると、ああ、平和だ。この世のすべてがつつましいもののように思える)
子どもの寝顔を見ることで、心が安らぎ、世界全体が穏やかに感じられるという母親の気持ちを表しています。子どもが健やかに眠る姿は、母親にとって何よりの幸せであり、平和の象徴として描かれています。
5.手を離すときの子の不安げな瞳よああ母としていかに応えむ
(手を離すときに子どもが見せる不安そうな瞳。ああ、母としてどのように応えてあげたらいいのだろうか)
成長するにつれて、子どもは親から離れていくものですが、その瞬間に見せる不安げな瞳が母親の心を揺さぶります。母として、どう支えていくべきか、自問する姿が描かれています。
6. 遺産なき母が唯一のものとして残しゆく「死」を子らは受取れ
「遺産なき母」は、財産や物質的な遺産を残せない母親を指しますが、それでも唯一残すものが「死」であるという表現には、強い表現です。母が生きた証、短歌や人生そのものが子どもたちにとって大切な遺産であるという意味が込められているように思われます。
今日の一句
信心が 念仏迎え 仏智とぞ 光照らされ春を迎えぬ