【英語精読】『小公子』:嵐の前の静けさと、ホッブス氏の憤慨(5分解説)
名作『小公子』の読解シリーズ。今回は、主人公セドリックの平穏な日常に「大きな変化」が訪れる直前の描写を読み解きます。当時のロンドンの世相や、独特の社会階級への視点を学びましょう。
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1. 今日のテキスト(音声付き)
Mr. Hobbs took him to see a great torchlight procession, and many of the men who carried torches remembered afterward a stout man who stood near a lamp-post and held on his shoulder a handsome little shouting boy, who waved his cap in the air.
It was not long after this election, when Cedric was between seven and eight years old, that the very strange thing happened which made so wonderful a change in his life. It was quite curious, too, that the day it happened he had been talking to Mr. Hobbs about England and the Queen, and Mr. Hobbs had said some very severe things about the aristocracy, being specially indignant against earls and marquises. It had been a hot morning; and after playing soldiers with some friends of his, Cedric had gone into the store to rest, and had found Mr. Hobbs looking very fierce over a piece of the Illustrated London News, which contained a picture of some court ceremony.
【意訳】
ホッブス氏は彼(セドリック)を連れて、盛大なたいまつ行列を見に行きました。たいまつを掲げていた男たちの多くは、後に、街灯のそばに立って、元気よく叫びながら空中に帽子を振っているハンサムな少年を肩車していた、がっしりした体格の男のことを思い出したものでした。
セドリックが7歳から8歳になる頃、この選挙から間もなくして、彼の人生に素晴らしい変化をもたらす、非常に奇妙な出来事が起こりました。奇妙なことに、その事件が起きた日、彼はホッブス氏とイギリスや女王について話をしていました。ホッブス氏は貴族階級に対して非常に手厳しいことを言っており、特に伯爵や侯爵に対して憤慨していたのです。それは暑い朝のことでした。友人たちと兵隊ごっこをして遊んだ後、セドリックは休憩しに店に入りました。するとそこには、「イラストレイテッド・ロンドン・ニュース」の紙面に掲載された宮廷儀式の写真を見て、ひどく恐ろしい形相をしているホッブス氏がいたのです。
2. 文法・表現のロジカル解説
① 強調構文 "It was ... that ~"
"It was not long after this election... that the very strange thing happened" は強調構文です。「その奇妙なことが起きたのは、(他ならぬ)この選挙のすぐ後のことだった」という、物語の転換点を強調する役割を果たしています。
② 過去完了進行形 "had been talking"
出来事が起こった(happened)時点よりも前から、その時まで「ずっと話をしていた」という継続の状態を表しています。後にセドリック自身がその「貴族」の一員になるという皮肉な展開への伏線となっています。
③ 付帯状況の現在分詞 "being specially indignant"
Mr. Hobbs said... の後に続く "being..." は、彼がどのような様子(感情)でその厳しい言葉を吐いていたかを補足説明しています。「(心境としては)特に伯爵たちに腹を立てながら」という意味になります。
3. 語彙チェック
| 単語 | 意味 | 発音 |
|---|---|---|
| Procession | 行列、行進 | |
| Stout | がっしりした、頑丈な | |
| Indignant | 憤慨した、怒った | |
| Aristocracy | 貴族、貴族階級 | |
| Fierce | 険しい、獰猛な | |
| Earl | 伯爵 | |
| Marquis | 侯爵 |
Slang & Informal Expressions
stout (現代での使われ方)
現代では単に「太っている」の婉曲表現として使われることもありますが、この文脈では "buff" (筋肉質でがっしりした) や "burly"(骨格が太くて筋肉質、かつ体が大きい)の意味になります。発音:
looking fierce (現代での使われ方)
この物語では「怒っている」意味ですが、現代の若者言葉(slang)では "Looking fierce!" と言うと「(ファッションなどが)めちゃくちゃイケてる!」「力強くてカッコいい!」というポジティブな意味になりますので注意が必要です。発音:
【深掘り】メディアが繋ぐアメリカとイギリス: Illustrated London News
この場面でホッブス氏が読んでいる「Illustrated London News」は、実在した世界初の絵入り週刊新聞です。ここに、当時の社会的・心理的な面白いポイントが隠されています。
1. 「絵」がもたらした強烈なインパクト
19世紀、写真や精密な挿絵が新聞に載るようになったことは、人々の心理に大きな影響を与えました。アメリカに住む一般市民であるホッブス氏が、遠いイギリスの「宮廷儀式(court ceremony)」を視覚的に見ることで、特権階級の贅沢さや古臭い伝統に対して、より具体的な「怒りの対象」を見出したことが描写されています。
2. アメリカ的共和主義 vs イギリス貴族制
ホッブス氏の憤慨は、当時の一般的なアメリカ人の心理を代表しています。
- 🚩 自由の国アメリカ: 「人は平等であるべきだ」という共和主義的価値観がとられていました。この時代は、イギリスから独立したことから、王様や貴族といった身分を否定しており、自立した市民が平等に選挙で指導者を選ぶ国を理想としていました。
- 🚩 階級の国イギリス: 爵位(Earl/Marquis)が世襲される制度。
ホッブス氏にとって貴族は「何もせずとも特権を享受する敵」のような存在でした。そんな彼が、最も可愛がっているセドリックが「その敵側の人間(伯爵の跡継ぎ)」だと知ったときにどう反応するか……という、物語最大の心理的葛藤への完璧なセットアップになっているのです。