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日々の雑感

マレーシアの中国系はなぜ3ヶ国語話せる?独自の教育制度と語学のリアル

マレーシアの書店に足を踏み入れると、マレー語、中国語、英語の本が、当たり前のように隣り合って並んでいます。スーパーで食パンを手に取れば、その説明は4ヶ国語表記。
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「この多言語社会で、人々はどうやって言葉を覚えるのだろう?」

特に、漢字という複雑な文字体系を持つ中国語を母国語としながら、商売でも活躍する中国系の人々は、どのようにして複数の言語を操っているのか。その素朴な疑問から、マレーシアの教育制度、特に中国系住民の語学教育について調べてみました。

その答えは、マレーシア独自の**「民族別の学校制度」**に隠されていました。

 

言語のるつぼ、マレーシアの学校制度とは?

 

まず、マレーシアの基本的な教育の流れです。

  • 初等教育(6年間): 義務教育。ここが最も特徴的。

  • 中等教育(5年間)

  • 大学・専門学校など

ポイントは、公立の小学校に**「国民学校「国民型学校」**という種類があること。

  • 国民学校(SK): 主にマレー系が通い、授業はマレー語で行われる。

  • 国民型学校(SJK): 中国語で授業を行う**華文小学校(SJKC)**と、タミル語で授業を行うタミル語学校(SJKT)がある。

この「華文小学校(SJKC)」こそが、中国系住民の語学能力の根幹をなす場所なのです。

 

では、ある中国系の子供が、どのように3ヶ国語を身につけていくのか、その成長の道のりを追ってみましょう。

 

フェーズ1:家庭 〜中国語が全ての基礎〜

 

家庭で話される言葉は、主に中国語です。都市部では標準中国語(北京語)が多いですが、祖父母とは広東語や福建語といった方言で話すことも珍しくありません。幼い頃から、中国語がコミュニケーションの基盤となります。

 

フェーズ2:華文小学校(SJKC)〜トリリンガル教育の始まり〜

 

7歳になると、多くの中国系の子供たちは華文小学校(SJKC)に入学します。ここでの教育が、彼らの言語能力を決定づけます。

  • 授業の基本言語は「中国語」: 国語(中国語)、算数、理科といった主要科目を中国語で学びます。

  • 「マレー語」も必修: 国語(マレー語)として、マレーシアの公用語を学びます。

  • 「英語」も必修: 国際共通語として、英語の授業も行われます。

つまり、小学校の6年間で、3つの言語の読み書きと会話の基礎を、毎日浴びるように学んでいくのです。

 

フェーズ3:中学校 〜進路で変わる得意言語〜

 

小学校卒業後、進路は主に3つに分かれます。この選択が、その後の得意言語に大きく影響します。

  1. 公立中学校へ進学(多数派): 授業の基本言語がマレー語になります。ここでマレー語能力が一気に向上し、流暢に話せるようになります。

  2. 私立の中国語系中学(独立中学)へ進学: 引き続き中国語で高度な教育を受けます。中国語の能力をさらに伸ばしたい家庭が選択します。

  3. 私立のインターナショナルスクールへ進学: 授業は全て英語で行われます。将来的な海外大学への進学などを視野に入れた選択です。

 

結果:ごく自然に3ヶ国語を操る人々が育つ

 

このような教育過程を経ることで、マレーシアの中国系住民の多くが、ごく自然に複数の言語を使い分ける能力を身につけます。

  • 家族や中国系の友人とは「中国語」

  • 公的な手続きや他民族との会話では「マレー語」

  • ビジネスやインターネットでは「英語」

もちろん個人差はあり、華文小学校出身者はマレー語が少し苦手だったり、逆に英語が非常に堪能だったりと様々です。しかし、3つの言語に日常的に触れている環境が、彼らのコミュニケーション能力とビジネスでの強さに繋がっていることは間違いないでしょう。

多言語社会マレーシア。その背景には、幼少期からの言語教育を担う、ユニークでパワフルな学校制度が存在していたのです。

 

今日の一句

マレーシア常夏の地に言葉満ち差別乗り越え共に生きゆく