月影

日々の雑感

三言語以上を話すこと(多言語使用、マルチリンガリズム)が認知症予防に与える影響について

多くの研究がバイリンガル(二言語使用)が、認知症になるのが一ヶ国語を話す人より遅くなることを報告しています。さらに、三言語以上話せる人たちの認知症の発生の研究でも良好な効果があると報告されています。


1. 認知予備能(Cognitive Reserve)のさらなる向上と認知症発症遅延の可能性
* 多くの研究で、複数の言語を話すことは、脳の「認知予備能」を高めるとされています。これは、脳に何らかの病理的な変化(例えばアルツハイマー病に関連する変化)が生じても、認知機能の低下を遅らせたり、症状の出現を抑えたりする能力のことです。
* いくつかの研究では、二言語使用者と比較して、三言語以上の使用者は、この認知予備能がさらに大きい可能性が示唆されています。より多くの言語を管理し、切り替えるという複雑な精神活動が、脳のネットワークをより強固にし、柔軟性を高めると考えられます。
* 結果として、三言語以上の使用者は、認知症の症状が現れる年齢が、一言語使用者や二言語使用者よりもさらに遅れる可能性があるという報告があります。ある研究では、特に高齢の三言語使用者は、二言語使用者よりも認知機能低下に対する保護効果が大きいことが示されました。


2. 言語数と効果の「量-反応関係」の可能性
* 一部の研究では、話す言語の数が多いほど、認知機能への好影響が大きくなる、いわゆる「量-反応関係」の存在が示唆されています。
* 特に注目される研究の一つに「ナン・スタディ(The Nun Study)」があります。この長期的な研究では、4言語以上を話す参加者は、1言語しか話さない参加者と比較して、認知症を発症するリスクが有意に低いことが示されました。興味深いことに、この研究では2言語または3言語を話す参加者においては、統計的に有意なリスク減少は見られませんでした。これは、ある閾値以上の言語数(この場合は4言語以上)が、より顕著な保護効果をもたらす可能性を示唆しています。
* 他の研究でも、3つ以上の言語を話す高齢者は、年齢や教育レベルを考慮に入れた後でも、認知障害のリスクが低下することが示されています。


3.バイリンガルの場合

バイリンガルの人は、そうでない人と比較して認知症の発症が数年遅い傾向があると言われています。これは、2つの言語を常に切り替えて使用することが、脳の認知予備能(脳の機能的な予備力)を高めるためと考えられています。複数の言語を操ることは、脳にとって良い訓練となり、認知機能の維持に役立つ可能性があります。


4. 考えられるメカニズム
三言語以上を使用することが、なぜより大きな認知的利点をもたらす可能性があるのかについては、以下のようなメカニズムが考えられています。
* より高度な実行機能の訓練: 複数の言語を常に切り替え、適切な言語を選択し、他の言語の干渉を抑制する必要があるため、脳の実行機能(計画、注意の切り替え、ワーキングメモリなど)がより高度に鍛えられます。
* 脳の構造的・機能的変化の増強: より多くの言語を使用することが、脳の特定の領域(前頭葉頭頂葉など)の灰白質の密度を高めたり、白質の結合性を強化したりするなど、脳の構造的・機能的な変化をより大きく促す可能性があります。
* 異文化理解と精神的柔軟性の向上: 多くの言語に触れることは、多様な文化や思考様式に接する機会を増やし、精神的な柔軟性や問題解決能力を高めることにも繋がるかもしれません。

 

5.他の認知症予防の方法との比較

現在、クロスワードパズルや数独が取り入れられています。それらは、脳の機能を使いますが、脳の一部の機能を使います。それに対して、外国語の学習は脳全体を使うという違いがあります。また、言葉のを増やすという事が脳に良いのでしょう。新しいことに挑戦するというので脳が喜ぶのかもしれません。最近、古文の講義など高度な教育を高齢者に受けてもらうという試みが行われており、効果が期待されています。


結論として
三言語以上を話すことは、二言語使用の認知的な利点をさらに強化し、特に認知症予防や認知機能の維持において、より大きな保護効果をもたらす可能性が多くの研究で示唆されています。特に4言語以上で顕著な効果が見られたとする研究結果は注目に値します。

今日の一句

外国のことばを知れば老い遅れ 忘れぬ記憶声に宿りぬ