【英語精読】『小公子』Vol.23:「悪徳貴族をぶっ飛ばせ!」ホッブス氏の激しい怒り
「なんとなく」読む英語から、文化背景を「理解」する英語へ。今回は、アメリカの庶民代表ホッブス氏の毒舌が炸裂します。スラングや強い表現を通して、当時のアメリカとイギリスの温度差を感じてみましょう。
1. 今日のテキスト(音声付き)
“Ah,” he said, “that's the way they go on now; but they'll get enough of it some day, when those they've trod on rise and blow 'em up sky-high,--earls and marquises and all! It's coming, and they may look out for it!”
Cedric had perched himself as usual on the high stool and pushed his hat back, and put his hands in his pockets in delicate compliment to Mr. Hobbs.
“Did you ever know many marquises, Mr. Hobbs?” Cedric inquired,--“or earls?”
“No,” answered Mr. Hobbs, with indignation; “I guess not. I'd like to catch one of 'em inside here; that's all! I'll have no grasping tyrants sittin' 'round on my cracker-barrels!”
And he was so proud of the sentiment that he looked around proudly and mopped his forehead.
“Perhaps they wouldn't be earls if they knew any better,” said Cedric, feeling some vague sympathy for their unhappy condition.
“Wouldn't they!” said Mr. Hobbs. “They just glory in it! It's in 'em. They're a bad lot.”
【意訳】
「ああ、」と彼は言いました。「あいつらは今でこそあんな風に好き勝手やっているが、いつか痛い目を見るさ。虐げられてきた連中が立ち上がって、伯爵だの侯爵だの、どいつもこいつも空高く吹っ飛ばしてやる日が来るんだ!その時は近づいている。あいつら、首を洗って待ってやがれ!」
セドリックはいつものように高い椅子にちょこんと腰掛け、帽子を後ろにずらし、両手をポケットに入れました。ホッブス氏への彼なりの精一杯の敬意の表れです。
「ホッブスさんは、侯爵とか伯爵をたくさん知っているの?」セドリックは尋ねました。
「いいや、」ホッブス氏は憤慨して答えました。「知るわけがない。ここであいつらを捕まえてやりたいくらいだ、全く!俺の店のクラッカー樽の上に、あの欲張りな暴君どもを座らせておくわけにはいかんからな!」
彼は自分のこの意見をとても誇りに思い、得意げに辺りを見回すと、額を拭いました。
「きっと、もっと良いことを知っていたら、彼らだって伯爵なんかにならないのかもしれないね」セドリックは、彼らの不幸な境遇(と彼は思っていました)に、かすかな同情を感じて言いました。
「ならないだと!」ホッブス氏は言いました。「あいつらはそれを鼻にかけて楽しんでるんだ!血筋なんだよ。どいつもこいつも救いようのない連中さ」
2. 文法・表現のロジカル解説
① 反語的な "Wouldn't they!"
セドリックが「(もし分かっていたら)伯爵にはならないだろう」と言ったのに対し、ホッブス氏が "Wouldn't they!" (ならないだと!? いや、なるに決まってる!) と強く否定しています。助動詞だけを使って相手の言葉を強く打ち消す、非常に口語的な表現です。
② 仮定法過去 "Perhaps they wouldn't be... if they knew..."
セドリックの言葉には仮定法過去が使われています。実際には彼らは伯爵であり、何も分かっていない(というセドリックの推測)ため、現実とは異なる「もし~だったら」という想像を表しています。セドリックの純粋すぎる優しさが際立つシーンです。
③ 関係代名詞の省略 "those (whom) they've trod on"
those の後に目的格の関係代名詞が省略されています。「彼ら(貴族)が踏みつけにしてきた人々」という意味です。 trod on (踏みつける) は虐げられた民衆の怒りを象徴する強い動詞です。
3. 語彙チェック & スラング解説
| 単語 | 意味 | 発音 |
|---|---|---|
| Indignation | (義憤による)怒り | |
| Grasping | 強欲な、欲張りな | |
| Tyrant | 暴君、独裁者 | |
| Sentiment | 感情、意見、所感 | |
| Glory in | ~を誇りにする、~を悦に浸る |
Slang & Informal Expressions
blow 'em up sky-high
現代語での言い換え: "Blow them away," "Completely destroy them"直訳すると「空高く吹き飛ばす」ですが、比喩的に「こてんぱんにする」「社会的に破滅させる」という意味で使われます。 "'em" は "them" の省略形です。
発音:
a bad lot
現代語での言い換え: "A bad bunch," "A bunch of losers/bad people"特定のグループを指して「ろくでなしの集まり」「質の悪い連中」という時に使われます。
発音:
know any better
現代語での言い換え: "Know what's right," "Have better sense"「もっと分別のつく年齢である」「もっと良いやり方や道徳を知っている」という意味です。通常は否定文で「分別がない」という意味で使われます。
発音:

【深掘り】 cracker-barrels(クラッカー樽)とアメリカの社交場
ホッブス氏が「俺のクラッカー樽(cracker-barrels)に座らせないぞ」と言っているのは、単に売り物の話をしていません。ここには当時のアメリカの面白い社会背景があります。
1. 「雑談の場所」としての雑貨店
19世紀アメリカの田舎の雑貨店では、大きな樽にクラッカーを入れて量り売りしていました。この樽の周りは、近所の男たちが集まって政治やニュースについて議論する、いわば「庶民の議会場」だったのです。現代のアメリカでも、カントリーレストランのチェーン名に "Cracker Barrel" とあるのは、この「暖かくて庶民的な集いの場」というイメージから来ています。
2. 心理学的ポイント:セドリックの「逆転の発想」
ホッブス氏が貴族を「生まれながらの悪(It's in 'em)」と断定する一方で、セドリックは「彼らはただ、もっと良いことを知らないから不幸な立場にいるだけなんだ(Perhaps they wouldn't be earls if they knew any better)」と考えます。
- 🚩 ホッブス氏の心理: 貴族=強者=敵、という固定観念。
- 🚩 セドリックの心理: 貴族=(優しさを知らない)弱者=救済の対象、という無垢な視点。貴族こそ救われなければならない可哀想な人たちという意味です。セドリックは、愛を知らない孤独な貴族を、救ってあげたいと考えています。
このセドリックの「どんな相手も最初から敵だと思わない」という天真爛漫(てんしんらんまん)な心理が、のちに気難しいイギリスの伯爵の心をも溶かしていく最大の武器になります。このシーンはその伏線となっているのです。
ホッブス氏のあまりの毒舌ぶりに、セドリックも少し驚いたかもしれませんね。でも、この二人の友情はこの後さらに深いものになっていきます。次は、いよいよ物語が大きく動く「ある訪問者」の登場シーンです。