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なぜ?お酒に強い人と弱い人の違い|遺伝子レベルで解説

【第1回】お酒に「強い人」「弱い人」の真実:遺伝子が暴くアルコール代謝の秘密と危険な耐性の正体

1. なぜ顔が赤くなるのか?アルコール分解の二段階プロセス

「お酒を飲むとすぐに顔が赤くなる」「吐き気がする」といった反応(フラッシング反応)は、単なる体質のせいではなく、体内で起きる生命維持のための重要な防御反応です。

体に取り込まれたアルコール(エタノール)は、主に肝臓で以下の二段階のプロセスを経て分解されます。

  1. 第一段階:アルコール (エタノール) → アセトアルデヒド

    まず、アルコール脱水素酵素 (ADH) の働きにより、アルコールが酸化され、アセトアルデヒドという物質に変換されます。

  2. 第二段階:アセトアルデヒド → 酢酸

    このアセトアルデヒドこそが、アルコールそのものよりもはるかに毒性が強く、二日酔いや悪酔いの直接的な原因となる有害物質です。アセトアルデヒドはホルマリンの親戚です。この有害なアセトアルデヒドを、無害な酢酸(最終的には水と二酸化炭素に分解される)に変換し、無毒化する重要な役割を担うのが、2型アルデヒド脱水素酵素 (ALDH2) です。

2. あなたのお酒の強さは両親から受け継がれる

お酒に対する強さ(アセトアルデヒドの分解能力)は、何を隠そう、このALDH2を作る遺伝子の組み合わせによって決まります。この遺伝子には、アセトアルデヒドを分解する能力が高い「N型」と、その能力が全くない「D型」の2種類があります。

私たちは父親と母親から、この遺伝子を1つずつ受け継ぎます。その組み合わせパターンによって、お酒の強さが次の3つのタイプに分かれるのです。

父親からもらう遺伝子 母親からもらう遺伝子 遺伝子型 お酒の強さのタイプ 分解能力 特徴 日本人の割合
N N NN型 強い人 💪 100% アセトアルデヒドを素早く分解できる。いわゆる「ザル」。 約55%
N D ND型 弱い人 🥴 約6% 分解能力が低く、アセトアルデヒドが溜まりやすい。少量で顔が赤くなる。 約35%
D D DD型 全く飲めない人 🤢 0% 全く分解できず、一口でも飲むと強い拒絶反応が出る。 約10%

つまり、両親のどちらか一方からでも分解能力のない「D型」の遺伝子を受け継ぐと、お酒に弱い体質(ND型またはDD型)になるということです。この事実は、日本人の約半数が遺伝子的にお酒に弱いことを示しています。自分の体質は、生まれながらにして決まっているのです。昼にお酒を飲んで夜にまだ頭が痛かったりしたらND型で弱い人と考えていいでしょう。

【追記】全く飲めない(DD型)の方へ:微量アルコールと運転の注意点

酵素の働きが全くないDD型の方は、日常生活に潜むごく微量のアルコールにも注意が必要です。

栄養ドリンクやノンアルコールビールは大丈夫?

  • 栄養ドリンク: ほとんどの製品はアルコールが入っていませんが、ごく微量のアルコールが含まれているものがあります。DD型の人の場合、この程度の量でも急性アルコール中毒に似た症状(顔が真っ赤になる、動悸、吐き気、頭痛など)を引き起こす可能性があります。飲む前にアルコールが含まれていないか確認しましょう。
  • ノンアルコールビール 日本ではアルコール度数1%未満の飲料を「ノンアルコール」と表記できます。必ず「アルコール分0.00%」と表記された製品を選ぶようにしましょう。
  • アルコールを含むお菓子も注意が必要です。

車の運転はしてもいい?

結論から言うと、極めて危険です。

DD型の人の場合、たとえ法的な基準値に達しなくても、アセトアルデヒドの作用で激しい頭痛、めまい、集中力の低下といった、安全な運転が不可能になるほどの身体的症状が出るリスクが非常に高いのです。

DD型の方は、アルコールを含む可能性のある製品を摂取した後は、絶対に運転をしないでください。

3. 「飲み続ければ強くなる」の危険な勘違い

遺伝的に弱い体質(ND型)の人が、社会的な付き合いなどで無理に飲酒を続け、「昔より飲めるようになった」と感じるケースは少なくありません。しかし、これは非常に危険なサインです。

ALDH2の活性は遺伝子で決まっており、後天的に高まることは絶対にありません。飲めるようになったと感じるのは、脳の神経がアルコールの作用に麻痺する「耐性」ができただけであり、体内で分解しきれない高濃度のアセトアルデヒドに、常にさらされ続けているという危険な状態なのです。

4. 無理な飲酒が招く、取り返しのつかない病

ALDH2の働きが弱い人が無理な飲酒を続けると、毒性の強いアセトアルデヒドが体中の細胞やDNAを傷つけ、様々な病気のリスクを爆発的に高めます。

  • がんリスクの極大化 📈
    特に、食道がん咽頭がんといった上部消化管のがんリスクは、飲酒習慣のない人と比べて数十倍に跳ね上がることが科学的に証明されています。
  • 肝臓への致命的ダメージ 💔
    過剰な飲酒は、アルコール性脂肪肝からアルコール性肝炎、そして最終的には肝臓が機能しなくなるアルコール性肝硬変へと進行します。

結論として、遺伝的にお酒に弱い人が「耐性」をつけて飲むことは、発がん性物質を体内に溜め込みながら生きるのと同じです。自分の体質を正しく理解し、無理のない健康的な飲酒を心がけることが何よりも大切です。

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