【第2回】飲酒運転を絶対に避ける科学:あなたのアルコール分解時間は「平均」より遥かに長いかもしれない
前回、お酒に強いか弱いかに遺伝が関わっていることを記事にしました。以下をご覧ください。
1. まずは「純アルコール量」を正確に把握する
お酒の影響を正しく知るには、飲んだお酒の量(ml)ではなく、それに含まれる純アルコール量(g)に注目することが重要です。
純アルコール量(g) = 摂取量(ml) × アルコール度数(%) / 100 × 0.8 (アルコールの比重)
例えば、アルコール度数5%のビール500ml缶1本の場合、純アルコール量は20gとなります。
2. アルコール分解時間にひそむ、驚くほどの個人差
純アルコール20g(ビール500ml缶1本に相当)を分解するためにかかる時間は、一般的に成人で約3~4時間が目安とされます。これは、アルコールから安全な酢酸にまで分解するのに掛かる時間です。
アルコールの分解時間は、遺伝的な体質(アセトアルデヒドから酢酸にするALDH2の活性度が低い人)、体重、性別、年齢などによって、極めて大きな個人差があります。実際には、同じ20gの分解に11時間以上かかる人もいるというシミュレーション結果も存在します。
これは、アセトアルデヒドの分解能力が遺伝的に低い人(ND型)は、有害物質であるアセトアルデヒドが体から抜けるまで、NN型(強い人)の2倍以上の時間(7~10時間以上)がかかるためです。
3. 体質の違いに関する3つの真実
アルコール分解能力の違いは、飲酒運転や体調にどう影響するのでしょうか。多くの人が誤解しがちな3つのポイントを解説します。
Q1. 飲酒運転のセンサー反応は変わる? 👮
結論:全く同じように反応します。
呼気検査器が測定しているのは、気分の悪さの原因であるアセトアルデヒドではなく、体内に残っているアルコール(エタノール)です。アルコールが分解される第一段階の速度は体質で大きく変わらないため、飲んだ量が同じならセンサーの反応も同じです。気分が悪くなくても、基準値を超えれば飲酒運転になります。
Q2. 気分の悪さが続く時間は? 🤢
結論:弱い人(ND型)の方が圧倒的に長く続きます。
頭痛や吐き気の原因は、毒性の強いアセトアルデヒドです。強い人(NN型)はこれを速やかに分解できますが、弱い人(ND型)は分解が非常に遅いため、毒にさらされる時間が長くなり、気分の悪さが翌日まで続くこともあります。
Q3. 分解を速める有効な方法は? ❌
結論:残念ながら、ありません。
分解速度は遺伝子で決まった酵素の性能に依存するため、後から高めることはできません。
- 水を飲む:脱水症状の緩和にはなりますが、分解速度自体は速まりません。
- ウコンなどを摂取する:酵素の性能を向上させる科学的根拠はありません。
💡 唯一の対策は、弱い人(ND型)は「アルコールを摂取しない、またはごく少量に留める」ことです。
4. 飲酒運転をしないための鉄則「ゼロ・トレランス」
飲酒運転の最大の危険は、「もう酔いは醒めた」と自分で感じていても、体内にアルコールが残っている可能性がある点です。分解時間は予測不可能であるため、運転前のアルコール摂取を完全にゼロにすることが、飲酒運転を回避する唯一の方法です。
5. 「栄養ドリンク」でも飲酒運転になる?
栄養ドリンクなどに含まれるごく微量のアルコールだけで、直ちに法律上の基準値を超える可能性は低いでしょう。
しかし、アルコール分解能力が極端に低い体質の人の場合、微量でもアセトアルデヒドが蓄積し、めまいや集中力の低下といった症状を引き起こす危険があります。運転という精密な操作において、これらの影響は事故のリスクを著しく高めます。
6. 飲酒運転を「させない」ための社会的な取り組み
飲酒運転は個人の問題だけでなく、社会全体で防ぐべきものです。福岡県では、飲酒運転の撲滅を「県民共通の願い」とし、以下のような責務を定めています。
- 家族・知人の責務: 家族や知人が飲酒運転をするおそれがある場合、声をかけて注意するなど、防止に努めなければなりません。
- 事業者の責務: 酒類を販売する店やタクシー・運転代行の事業者は、客が飲酒運転をするおそれがある場合、警察官に通報する義務があります。
これらの制度は、私たち一人ひとりが社会の安全に責任を持つという連帯を示しています。