【英語精読】『小公子』Vol.25:衝撃の訪問者とメアリーの呪文?(5分解説)
「なんとなく」読む英語から、構造を「確信」して読む英語へ。今回はセドリックの運命を変える「謎の老紳士」が登場。メイドのメアリーが放つ強烈なアイルランド訛りと、不穏な空気感を読み解きます。
1. 今日のテキスト(音声付き)
But it was not that. When he reached his own house there was a coupe standing before the door and some one was in the little parlor talking to his mamma. Mary hurried him upstairs and put on his best summer suit of cream-colored flannel, with the red scarf around his waist, and combed out his curly locks.
“Lords, is it?” he heard her say. “An' the nobility an' gintry. Och! bad cess to them! Lords, indade--worse luck.”
It was really very puzzling, but he felt sure his mamma would tell him what all the excitement meant, so he allowed Mary to bemoan herself without asking many questions. When he was dressed, he ran downstairs and went into the parlor. A tall, thin old gentleman with a sharp face was sitting in an arm-chair. His mother was standing near by with a pale face, and he saw that there were tears in her eyes.
【日本語訳】
けれど、(メアリーの動揺は暑さのせい)ではありませんでした。彼が自分の家に着くと、ドアの前には一頭立ての馬車(クープ)が止まっており、誰かが小さな居間でお母さんと話をしていました。メアリーは急いで彼を二階へ連れて行き、腰に赤いスカーフを巻いた、クリーム色のフランネルの最高のお出かけ着を着せ、くるくるの髪をきれいにとかしました。
「貴族(ロード)様だって?」彼女が言うのが聞こえました。「貴族に紳士階級かい。おぉ!あいつらに天罰が下ればいいんだ!貴族様だなんて、全くとんだ不運だよ」
それは本当にわけがわからないことでしたが、お母さんならこの騒ぎが何を意味しているのか教えてくれるはずだと彼は確信していたので、メアリーがぶつぶつ嘆き悲しんでいるのを、大して質問もせずにそのままにさせておきました。着替えが終わると、彼は一階へ駆け下り、居間へ入りました。鋭い顔つきをした背の高い、痩せた老紳士が肘掛け椅子に座っていました。お母さんは青ざめた顔でそばに立っており、彼は彼女の目に涙が浮かんでいるのに気づきました。
2. 文法・表現のロジカル解説
① 使役的なニュアンス "hurried him upstairs"
hurry + 人 + 場所 で「人を(場所に)急いで行かせる」という意味になります。メアリーの焦りと、事態の緊急性がこの短いフレーズに凝縮されています。
② 間接疑問文 "what all the excitement meant"
what (疑問詞) + all the excitement (主語) + meant (動詞) の語順になっています。「この大騒ぎが何を意味するのか」という名詞の塊として、tellの目的語になっています。
③ 付帯状況の分詞構文 "with a pale face"
with + 名詞 + 形容詞/副詞 で「~の状態で」と状況を補足します。「顔を青ざめさせた状態で(立っていた)」という、お母さんの心理的ショックを視覚的に伝えています。
3. 語彙チェック & 特殊表現
| 単語 | 意味 | 発音 |
|---|---|---|
| Coupe | クープ(二人の乗りの馬車) | |
| Curly locks | 巻き毛、くるくるの髪 | |
| Bemoan oneself | (不運などを)嘆き悲しむ |
Mary's Irish Slang(メアリーの罵り言葉)
メアリーのセリフはアイルランド訛りが非常に強く、貴族への反感が剥き出しになっています。
bad cess to them!
現代語での意味: "Bad luck to them!" / "May they have no success!""cess"は"success"の省略形と言われており、直訳すると「彼らに悪い成功を」=「不幸になればいい!」「くたばっちまえ!」という、非常に強い呪いや悪態のフレーズです。
発音:
Och! / indade / gintry
現代の標準語: Oh! / indeed / gentry(紳士階級)"indade"(インデード)や"gintry"(ジントリー)のように、'e'の音が'i'に近くなるのは典型的なアイルランド訛りのスペル表記です。
発音:
【深掘り】服が語る「覚悟」とメアリーの「怒り」
1. 社会的背景:なぜ「一番いい服」を着せたのか?
メアリーがセドリックに「cream-colored flannel(クリーム色のフランネル)」を着せたのは、単なるお洒落ではありません。当時のアメリカにおいて、イギリスからの「Lords(貴族)」を迎えることは、国家レベルの威信がかかったような一大事でした。
母ディアレストは、息子が「伯爵の孫」として値踏みされることを本能的に察していました。だからこそ、最高級のフランネルを着せることで、「アメリカで育ったけれど、決して卑しい育ちではない」という無言の抵抗とプライドを示したのです。
2. 心理学的側面:メアリーの「bad cess(天罰)」という防衛本能
メイドのメアリーが貴族を激しく呪うのは、単に彼女がアイルランド人だから(アイルランドはイギリス貴族に長く支配されていた歴史がある)だけではありません。彼女にとってセドリックたちは「家族」です。
突然やってきた「冷たい老紳士(弁護士)」が、自分たちの平穏な家庭を壊そうとしている。その「得体の知れない変化」への恐怖が、攻撃的な言葉となって噴き出しているのです。一方、何も知らないセドリックが「お母さんが後で教えてくれるからいいや」と冷静なのは、母親への絶対的な信頼(安全基地)があるからこそ言える、子供らしい健全な心理状態と言えます。