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5分でわかる【英語精読】『小公子』Vol.19 メイドのメアリーとアイルランド英語 ニューヨーク中産階級コラム付き 

【英語精読】『小公子』Vol.19:忠実なメアリーの誇りと、仕立て直しの「黒いベルベット」

「なんとなく」読む英語から、構造を「確信」して読む英語へ。第10回は、メアリーが語るセドリックへの深い愛情と、彼の気品あふれる外見の秘密。アイルランド訛りの英語第2弾として、当時のファッションや社会背景を深掘りします。

1. 今日のテキスト(音声付き)

Mary was very fond of him, and very proud of him, too. She had been with his mother ever since he was born; and, after his father's death, had been cook and housemaid and nurse and everything else. She was proud of his graceful, strong little body and his pretty manners, and especially proud of the bright curly hair which waved over his forehead and fell in charming love-locks on his shoulders. She was willing to work early and late to help his mamma make his small suits and keep them in order. “'Ristycratic, is it?” she would say. “Faith, an' I'd loike to see the choild on Fifth Avey-NOO as looks loike him an' shteps out as handsome as himself. An' ivvery man, woman, and choild lookin' afther him in his bit of a black velvet skirt made out of the misthress's ould gownd; an' his little head up, an' his curly hair flyin' an' shinin'. It's loike a young lord he looks.”

【全文翻訳】

メアリーはセドリックのことを心から慈しんでいましたし、とても誇りにも思っていました。あの子が生まれてからずっとお母さんのそばにいて、お父さんが亡くなってからは、料理番、家政婦、乳母、その他あらゆる役割をこなしてきました。彼女はあの子のしなやかで丈夫な小さな体や、可愛らしいマナーを誇らしく思い、とりわけ、額に波打ち肩にチャーミングな「ラブ・ロック(巻き毛)」となって垂れる輝くような金髪を自慢にしていました。メアリーはお母さんが坊やの小さな服を作ったり手入れしたりするのを助けるためなら、朝から晩まで喜んで働きました。

「貴族(アリスティクラティック)みたいだって?」と彼女はよく言ったものです。「本当ですよ、5番街(フィフス・アベニュー)のお金持ちの子供だって、あの子みたいに立派でハンサムに歩ける子がいたらお目にかかりたいもんです。お母さんの古いドレスを作り直した黒いベルベットのスカートをはいて、あの子が顔を上げて、くるくるの髪を輝かせながら歩けば、男も女も子供もみんな振り返りますよ。まるで若き領主様のようなお姿なんだから」

2. 方言・スラング解説(アイリッシュ・イングリッシュ)

前回に続き、メアリーのセリフはアイルランド移民独特の訛りで綴られています。

アイルランド英語は、以下のような特徴があります。

  1. f の音が fth と強調されています。afther (after)
  2. sの音が、shになります。shteps (steps), shtand (stand)
  3. 語末のgが落ちる(鼻濁音が消える)afther (after)
メアリーの訛り・スラング解説(クリックで展開)
綴り 標準英語 発音確認
'Ristycratic Aristocratic (貴族的な)
Faith Indeed / Truly (本当に)
an' and
loike / choild like / child
Avey-NOO Avenue (大通り)
misthress / ould mistress / old
gownd gown (ドレス)
ivvery every

※Avey-NOO:当時のニューヨーカーの「アベニュー」の強調された発音をメアリーの耳が捉えた様子を表しています。

3. 文法・表現のロジカル解説

① 献身を表す "willing to do"

willing to work early and late(朝早くから夜遅くまで喜んで働く)。単に「働く」のではなく、そこにセドリックへの愛情があるからこそ「いとわない」というニュアンスが強調されています。

② 強調の倒置的表現 "It's like a young lord he looks"

メアリーのセリフの最後の一文。標準語なら "He looks like a young lord." ですが、It's like... と持ってくることで、彼女の驚きと称賛がより強調されています。「若き領主様そのものですよ、そのお姿は!」という躍動感があります。

③ 素材・由来の "made out of"

made out of the mistress's old gown(奥様の古いドレスから作られた)。セドリックの服が新品ではなく「お下がり」や「リメイク」であることを示しつつ、それがベルベットという高級素材であったことから、かつての両親の暮らしぶり(または家柄)を忍ばせています。



【深掘り】5番街への対抗心と「リメイク服」の気品

メアリーの言葉には、当時のニューヨークの格差社会と、誇り高い「中産階級」の自負が見え隠れします。

1. 憧れと反骨の「5番街(Fifth Avenue)」

19世紀後半、ニューヨークの5番街は超富裕層の邸宅が立ち並ぶエリアでした。アイルランド移民のメアリーにとって、そこは「別世界の金持ち」が住む場所です。

  • 🚩 メアリーの自負: 「どんなに金持ちの5番街の坊ちゃんだって、うちのセドリック様のような気品(handsome stepping out)は持っていやしないわ!」という彼女の言葉は、血筋やマナーこそが真の「貴族」を作るという物語のテーマを象徴しています。

2. ファッションの歴史:ラブ・ロックとベルベット

セドリックのトレードマークである love-locks(長い巻き毛)は、当時の貴族的なスタイルの流行でもありました。

  • 🚩 節約の中の優雅: 経済的に楽ではないエロル夫人ですが、自分の古いドレス(ベルベット)をつぶして息子のキルトに作り直すあたりに、元軍人の妻としての「品位」を保とうとする懸命な努力が見て取れます。
  • 🚩 視覚的伏線: 貧しい地域に住みながらも、黒いベルベットと金髪という「王子様」のような姿で歩くセドリック。この姿こそが、のちに彼を迎えに来るイギリス使節を驚かせることになります。

※メアリーがセドリックを「Young Lord(若き領主)」と呼ぶのは、単なる比喩ではなく、あの子の血筋が本物であることを彼女が直感しているからなのです。