【英語精読】『小公子』Vol.30で学ぶ衝撃の告白|親友への気遣いと究極の気まずさ
『小公子』読解シリーズ第30弾です。前回、自分がイギリスの伯爵になるという「ショッキングな知らせ(break the news)」を、大の貴族嫌いである親友のホッブスさんにどう伝えるべきか思い悩んでいたセドリック。
今回は、いよいよその告白の瞬間です。アメリカの庶民と、図らずも貴族になってしまった少年の間で交わされる、最高に気まずくてユーモラスなやり取りを読み解きましょう。
1. 今日のテキスト(音声付き)
【日本語訳】
「やあ!」とホッブスさんは言った。「おはよう!」
「おはようございます」とセドリックは言った。
彼はいつものように高いスツールには登らず、クラッカーの箱の上に座り、膝を抱え込んだ。そして数分間とても静かにしていたので、ホッブスさんはついに新聞の上からいぶかしげに顔を上げた。
「どうした!」と彼はもう一度言った。
セドリックは心の力をすべて振り絞った。
「ホッブスさん」と彼は言った。「昨日のお昼、僕たちが何について話していたか覚えていますか?」
「ええと」とホッブスさんは答えた。「イギリスのことだったような気がするが」
「はい」とセドリックは言った。「でも、メアリーが僕を迎えに来たちょうどその時、ですよ?」
ホッブスさんは後頭部を撫でた。
「俺たちはヴィクトリア女王と貴族について話していたな」
「はい」とセドリックは少し言葉を濁しながら言った。「それと……伯爵についてです。覚えていますか?」
「ああ、そうさ」とホッブスさんは返した。「確かに俺たちはあいつらを少しばかりこき下ろしたな。そうだった!」
セドリックは額の巻き毛のところまで顔を真っ赤にした。彼の人生でこれほど気まずい思いをしたことはなかった。彼は、これがホッブスさんにとっても少し気まずいことにならないかと心配していた。
「あなたは言いましたよね」と彼は続けた。「あんな連中をクラッカー樽の周りには座らせないって」
「ああ、言ったとも!」とホッブスさんは断固として返した。「そして本気で言ったんだ。やれるもんならやってみろってんだ!」
「ホッブスさん」とセドリックは言った。「そのうちの一人が、今この箱の上に座っています!」
ホッブスさんは椅子から飛び上がらんばかりだった。
「何だって!」と彼は叫んだ。
「はい」とセドリックは相応の謙虚さをもって宣言した。「僕がその一人です。あるいは、これからそうなるんです。騙すつもりはありません」
2. 文法・表現のロジカル解説
① ホッブスさんのブロークンな英語 "We WAS mentioning..."
本来であれば "We were mentioning..." となるところですが、ホッブスさんは "We WAS" と言っています。これは当時のニューヨークの下町に住む労働者階級のカジュアルで少しブロークンな話し方を意図的に表現したものです。対照的に、セドリックは子供ながら非常にきちんとした英語を話します。
② 絶妙な表現 "with due modesty"
due には「当然の、ふさわしい、正当な」という意味があります。自分が伯爵になったという途方もない事実を告げる際にも、決して自慢するわけではなく、「相応の謙虚さをもって(with due modesty)」事実だけを控えめに伝えるセドリックの誠実な人柄が表れています。
3. 語彙チェック
| 単語 | 意味 | 発音 |
|---|---|---|
| inquiringly | いぶかしげに、尋ねるように | |
| aristocracy | 貴族階級 | |
| hesitatingly | ためらいがちに | |
| trifle | 少し、些細なこと | |
| embarrassing | 恥ずかしい、気まずい | |
| stoutly | 断固として、勇敢に | |
| deceive | 騙す |
4. 現代ならこう言う!スラング・口語表現
今回のセリフを現代のドラマのようなカジュアルな表現にするとどうなるでしょうか?
<I won't deceive you.
現代語:"I'm not kidding you." または "I'm for real."
「嘘じゃないんだ」「マジなんだよ」というニュアンスになります。
<What! he exclaimed. 🔊
現代語:"No way!" または "You gotta be kidding me!"
「何だって!」「冗談だろ!」という強烈な驚きの表現です。
5. 【深掘り】アメリカの平等の精神と、究極の気まずさ
19世紀のアメリカは、ヨーロッパの特権的な階級社会を嫌悪し、民主主義と平等の精神を重んじる「金ぴか時代(Gilded Age)」の真っ只中でした。ホッブスさんの「貴族なんてクラッカー樽の上に座らせない」というセリフは、まさに当時の典型的なアメリカ市民の気質を代弁しています。
セドリックは、自分がその忌み嫌われる「貴族(earl)」になってしまったことで、ホッブスさんから嫌われてしまうのではないかと本気で心配し、「彼の人生で最も気まずい思い(Nothing so embarrassing as this)」をしています。
「やれるもんならやってみろ!(Let 'em try it)」と息巻くホッブスさんに対し、「今、箱の上に一人が座っています(one is sitting on this box now!)」と打ち明けるシーンは、文学史上でも屈指のユーモラスで心温まる名場面です。自らの特権をひけらかすどころか、「親友に気まずい思いをさせて申し訳ない」と気遣う少年の優しさが光っています。