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【英語精読】『小公子』Vol.31|動揺するホブズ氏と「現実逃避」の口語表現・重要イディオムを解説

【英語精読】『小公子』Vol.31:動揺するホブズ氏と「現実逃避」の口語表現(5分解説)

「なんとなく」読む英語から、構造を「確信」して読む英語へ。名作『小公子』の第4回は、セドリックから「イギリスの弁護士が来た」と告げられた親友ホブズ氏の動揺シーン。強い驚きを表すユニークな口語表現と、状況を切り抜ける重要イディオムを解説します。

1. 今日のテキスト(音声付き)

Mr. Hobbs looked agitated. He rose up suddenly and went to look at the thermometer.

The mercury's got into your head!” he exclaimed, turning back to examine his young friend's countenance. “It IS a hot day! How do you feel? Got any pain? When did you begin to feel that way?”

He put his big hand on the little boy's hair. This was more embarrassing than ever.

“Thank you,” said Ceddie; “I'm all right. There is nothing the matter with my head. I'm sorry to say it's true, Mr. Hobbs. That was what Mary came to take me home for. Mr. Havisham was telling my mamma, and he is a lawyer.”

Mr. Hobbs sank into his chair and mopped his forehead with his handkerchief.

ONE of us has got a sunstroke!” he exclaimed.

“No,” returned Cedric, “we haven't. We shall have to make the best of it, Mr. Hobbs. Mr. Havisham came all the way from England to tell us about it. My grandpapa sent him.”

Mr. Hobbs stared wildly at the innocent, serious little face before him.

“Who is your grandfather?” he asked.

Cedric put his hand in his pocket and carefully drew out a piece of paper, on which something was written in his own round, irregular hand.

【意訳】

ホブズ氏はひどく狼狽している様子だった。彼は急に立ち上がると、温度計を確認しに歩いて行った。

「暑さで頭がおかしくなっちまったんだ!」彼は叫び、振り返って若い友人の顔つきをまじまじと調べた。「本当に暑い日だからな! 気分はどうだ? どこか痛むか? いつからそんな風に感じ始めたんだ?」

彼は大きな手を小さな男の子の髪の上に置いた。セドリックにとって、これはかつてないほど決まりの悪いことだった。

「ありがとうございます、ホブズさん」セドリックは言った。「僕は大丈夫です。頭は何ともありません。本当のことだと言うのは心苦しいのですが、本当なんです。メアリーが僕を家に連れ戻しに来たのはそのためだったんです。ハヴィシャムさんがお母さんに話していました。あの人は弁護士なんです」

ホブズ氏は椅子に深く沈み込み、ハンカチで額の汗をぬぐった。

「俺たちのどちらかが日射病にかかっちまったんだ!」彼は叫んだ。

「いいえ」セドリックは答えた。「なっていません。僕たちはこの状況を何とかうまく受け入れていくしかありません、ホブズさん。ハヴィシャムさんはわざわざイギリスからそのことを僕たちに伝えるためにやってきたんです。おじい様が彼をよこしたのです」

ホブズ氏は、目の前にある無邪気で真剣な小さな顔を、狂おしいほどに見つめた。

「お前のおじいさんとは、一体誰なんだ?」彼は尋ねた。

セドリックはポケットに手を入れ、一枚の紙切れを注意深く取り出した。そこには、彼自身の丸っこくて不揃いな筆跡で、何かが書かれていた。

2. 文法・表現のロジカル解説

① 事実を強調する “It IS a hot day!”

ここでの "IS" が大文字になっているのは、話し手がここを強く発音したことを示しています(持っている知識や目の前の事実の強調)。ホブズ氏はセドリックの奇妙な話を「あまりの暑さのせいで見た幻覚」だと決めつけようとしており、「(お前がおかしくなるのも無理はない、だって)本当に今日は暑い日なんだからな!」と、自分を納得させるように強調しています。

② 置かれた状況で最善を尽くす “make the best of it”

"make the best of ~" は、「(あまり良くない状況・変えられない環境)の中で何とかうまくやっていく、最善を尽くす」という意味の重要イディオムです。セドリックは、自分がイギリスの貴族の跡継ぎになるという大事件を、おめでたいことというよりは、現在の平穏な暮らしを揺るがす「受け入れ、乗り越えなければならない事態」として幼心に捉えていることが分かります。

③ 前置詞+関係代名詞 “a piece of paper, on which ~”

修飾される名詞(先行詞)は "a piece of paper"(一枚の紙切れ)です。その紙の「上に(on)」文字が書かれていたため、"on which" という形になっています。関係代名詞の非制限用法(カンマ付き)に近く、情報を後ろから「その紙の上にはね、何かが書かれていたんだよ」と、情景を描写するように補足していく効果があります。

3. 特有のスラング・口語表現(現代語の言い換え付き)

作中でホブズ氏が使う、当時のユニークな口語表現や省略表現です。現代ならどう言うかも合わせてチェックしましょう。

① “The mercury's got into your head!”

現代語での言い換え: "The heat is making you crazy!" / "You're losing your mind because of the heat!"

解説: "mercury" は「水銀」のことで、ここでは「温度計の中の水銀(=気温の上昇)」を指します。「暑さ(水銀)が頭に回り、のぼせておかしなことを言っている」という比喩的な口語表現です。

② “Got any pain?”

現代語での言い換え: "Do you have any pain?" / "Are you hurting anywhere?"

解説: 主語の "You" と助動詞 "Have / Do" が省略された、非常にフランクな口語の疑問文です。親しい間柄で、相手の体調を素早く気遣う際に今でも使われる省略の形です。

③ “ONE of us has got a sunstroke!”

現代語での言い換え: "One of us is completely hallucinating!" / "This is insane!"

解説: "sunstroke" は「日射病・熱中症」のこと。セドリックの話があまりにも突拍子もないため、「お前の頭がおかしくなったか、それを聞いてる俺の耳がおかしくなったかのどちらかだ!」という強い驚きと現実への拒絶を、病気に例えて表現したスラング的ユーモアです。

4. 語彙チェック

単語 意味 発音
agitated 動揺した、興奮した
countenance 顔つき、表情、容貌
embarrassing 決まりが悪い、恥ずかしい
mopped (汗などを)拭った(mopの過去形)
all the way わざわざ、はるばる遠くから
irregular hand 不揃いな筆跡(handは「筆跡」の意)

【深掘り】ホブズ氏の心理:19世紀アメリカの「共和主義」とイギリス貴族への嫌悪

ホブズ氏がここまで激しく動揺し、現実逃避のように「日射病だ!」と叫んでいる背景には、単におとぎ話のような展開への驚きだけでなく、当時の**アメリカ社会の心理・政治的背景**が深く絡んでいます。

1. 熱烈なアンチ・貴族主義としてのアメリカ人

物語の舞台である19世紀後半のアメリカ(ニューヨーク)の市民、特にホブズ氏のようなたたき上げの商店主は、イギリスの「階級社会」や「貴族制度」を激しく嫌悪していました。アメリカはイギリスの支配から独立し、「全ての人間は平等である」という民主主義・共和主義の理念を掲げて作られた国だからです。

  • 🚩 ホブズ氏のスタンス: 彼は日頃からセドリックに「イギリスの貴族がいかに強欲で、労働者を虐げているか」を熱弁していました。彼にとって貴族とは「悪の象徴」だったのです。

2. 親友が「敵」になるかもしれないという心理的パニック

その大嫌いな「イギリス貴族(伯爵)」の血を引く跡継ぎが、まさか自分が我が子のように可愛がっている目の前の無邪気なセドリック(親友)だった、という事実はホブズ氏のこれまでの世界観を根本からひっくり返すものでした。

  • 🚩 脳内フリーズの理由: 「セドリックは大好きだが、貴族は大嫌い。そのセドリックが貴族になる……?」という強烈な認知不協和に陥ったからこそ、彼は「温度計」を見に行ったり「日射病だ」と言い張ったりして、現実をシャットアウトしようとしたのです。

※幼いセドリックがそんな彼の政治的ショックを知らずに、一生懸命自分で書いた不揃いな文字のメモを取り出す健気さが、この後のホブズ氏のさらなるリアクションを引き立てる絶妙な心理描写となっています。

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