月影

日々の雑感

東本願寺「同朋会運動」の歴史と現在|暁烏敏、機の深信、そして社会運動へ

 

真宗再興と「個の自覚」

同朋会運動の歴史的源流から現代の社会実践まで

1. 同朋会運動の誕生と歴史的背景

1962年、東本願寺で産声を上げた「同朋会運動」は、戦後の混迷から立ち上がるための純粋な信仰運動でした。その淵源は、1948年に訓覇信雄が曽我量深・安田理深らと結成した「真人社」にあります。「思想の混迷に応え得るものは真宗以外にない」という強い信念が、運動の火種となりました。

暁烏敏と宮谷法含:懺悔からの再出発

運動の前史として欠かせないのが、暁烏敏による「同朋生活運動(清掃奉仕)」です。1951年、巨額の負債を抱え危機に瀕した東本願寺の宗務総長に就いた暁烏師(当時74歳)は、「この本山は念仏から湧き出たものです。念仏がなくなったら、この本山も消えるがよろしい」と断言。「念仏の回復」を財政再建の唯一の道として掲げました。自ら毎朝念仏を称え、法話を語る誠実な姿は全国の門徒を動かし、わずか1年で宗門の窮乏を救いました。これが現在の「奉仕団」の原型となりました。

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その後、1956年に宮谷法含が「宗門白書」において、親鸞聖人の遺徳に安住してきた教団の姿を深く「懺悔」し、近代教学の祖・清沢満之の精神に立ち返ることを宣言。1961年の御遠忌を経て、正式な同朋会運動の発足へと至ったのです。

2. 「個の自覚」と「人類に捧げる教団」

同朋会運動が掲げたスローガン「家の宗教から個の自覚の宗教へ」は、個人主義の推奨ではありません。それは「代々の檀家」という慣習に甘んじるのではなく、一人ひとりが教えによって目覚め、主体的に生きる力を得る「念仏者」への転換を意味しています。

「それは『人類に捧げる教団』である。世界中の人間の真の幸福を開かんとする運動である。」(1962年『真宗』巻頭言より)

地域や職場に「同朋の会」をひらき、老少、男女、善悪といった世俗の価値観を超えて、互いを「御同朋(おんどうぼう)」と見出し合う共同体(僧伽)の創造こそが、この運動の具体的目標でした。

3. 教学上の光と影:三願転入の「手段化」への反省

運動の深化に伴い、教学面では「信心獲得」のプロセスとして「三願転入」が強調されました。しかし、自力の限界を突き詰める「機の深信」を重んじるあまり、いつしか「自分の救われなさを考え抜くこと」が信心を得るための修行(手段)として利用される傾向が生じました。

それ当流の安心のすがたはいかんぞなれば、まづわが身は十悪・五逆、五障・三従のいたづらものなりとふかくおもひつめて、そのうへにおもふべきやうは、かかるあさましき機を本とたすけたまへる弥陀如来の不思議の本願力なりとふかく信じたてまつりて、すこしも疑心なければ、かならず弥陀は摂取したまふべし。このこころこそ、すなはち他力真実の信心をえたるすがたとはいふべきなり。 ― 蓮如上人『御文章』二帖目第十五通
蓮如上人『御文』現代語訳と解説

現代語訳:「当流の信心の姿とは、まず自分は救い難い愚かな存在であると深く自覚し、その上で、そのような私をそのまま救う阿弥陀如来の不思議な本願力を一点の疑いもなく信じることです。これこそが他力の信心を得た姿です。」

解説:浄土真宗の核である「二種深信」を説いています。

  • 機の深信:自らの煩悩を直視すること。
  • 法の深信:その私を救う仏の願いを信じること。
  • 現代的課題:東本願寺では現在、この「機の深信」を信心を得るための「テクニック」にしないよう戒めています。本来の自覚は、仏の光に照らされて「知らされる(頷かされる)」受動的な体験だからです。

機の深信を強調しすぎるアプローチは、実質的に自ら悟りを目指す聖道門(禅宗など)の方法論に近づく危うさを孕んでいました。救いの根拠である「如来の慈悲」を軽視し、内省という「精神的自力」に陥ることへの反省は、現代教学の大きな転換点となりました。

4. 現代の展開:真宗再興と社会への「慙愧」

2023〜2025年度指針「真宗再興」:
言葉だけが形骸化した現状を打破するため、伝統的な「寄合談合」の精神に基づいた「対話と共感」への回帰を掲げています。自己満足の教化ではなく、他者の痛みに頷ける人間性の回復を目指しています。

社会の「痛み」への共感と具体的実践

現在の同朋会運動は、単なる内面的な沈沈を超え、社会的な課題を「自分自身の事実」として照らし出しています。

  • 差別問題の直視(「是旃陀羅」問題):学習テキスト『御同朋を生きる』を通じ、宗門が長年経典を誤認し差別を助長してきた罪責を「慚愧(ざんき)」し、正確な読み直しを全宗門で進めています。
  • 非戦・平和への決意:過去の戦争協力を懺悔し、2025年に向け「非核非戦の誓い」を準備。
  • ジェンダー平等:「男女両性で形づくる教団」を目指し、専門機関「女性室」が性別役割分担の是正を推進。
  • 被災地支援:能登半島地震等の現実に、「他者の痛みを真に知ることはできない」という悲しみの中から、息の長い支援を継続。

同朋会運動とは、自らの救われがたさを知るとともに、その私を捨てぬ如来の光の中で、他者と対話し、人間としての尊厳を取り戻していく終わりのない歩みなのです。それは政治運動に終始するのではなく、常に「仏法に自己をたずねる」信仰の実践として、コンプライアンスや倫理性を伴ったものであることが問われ続けています。

参考文献:
死して生きる: 仏教回復の使命』訓覇信雄(法蔵館)
真宗の教えと宗門の歩み』(東本願寺出版)

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