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【英語精読】『小公子』Vol.11:準否定語scarcelyと助動詞needで読む新天地NYへの挑戦」英国軍籍の売却とは

【英語精読】『小公子』Vol.11:準否定語 scarcely と「軍籍売却」が語る新天地への決意(5分解説)

「なんとなく」読む英語から、構造を「確信」して読む英語へ。名作『小公子』第11回は、絶縁されたエロール大尉が、イギリス貴族としての過去を捨ててアメリカで一歩を踏み出す場面です。厳しい現実を前にした彼の強さと、当時の時代背景を読み解きましょう。

1. 今日のテキスト(音声付き)

The Captain was very sad when he read the letter; he was very fond of England and he dearly loved the beautiful home where he had been born; he had even loved his ill-tempered old father, and had sympathized with him in his disappointments; but he knew he need expect no kindness from him in the future. At first he scarcely knew what to do; he had not been brought up to work, and had no business experience, but he had courage and plenty of determination. So he sold his commission in the English army, and after some trouble found a situation in New York, and married.The change from his old life in England was very great, but he was young and happy, and he hoped that hard work would do great things for him in the future.

【日本語訳】

手紙を読んだ大尉は深く悲しみました。彼はイギリスを慈しみ、自分が生まれた美しい家を心から愛していたのです。あのような気難しく老いた父でさえも愛し、父が失望した時にはその心に寄り添ってきました。しかし、もはや将来にわたって父から情けをかけてもらうことはできないのだと、彼には分かっていました。最初は、どうすればいいかほとんど見当もつきませんでした。彼は働くために育てられたわけではなく、実務の経験もなかったからです。しかし、彼には勇気と、並外れた決断力がありました。そこで彼はイギリス陸軍の将校の身分(軍籍)を売り、苦労の末にニューヨークで職を見つけ、結婚したのです。イギリスでの以前の生活とは一変しましたが、彼は若く幸せで、懸命に働けば将来きっと道が開けると信じていました。大尉はその手紙を読み、深い悲しみに包まれました。彼はイギリスという国を慈しみ、自分が生まれた美しい邸宅を心から愛していたからです。あのように気難しく老いた父のことさえ愛しており、父が何かに失望したときには、その心に寄り添ってきました。しかし、もはや将来にわたって父から慈悲をかけてもらうことはできないのだと、彼は悟っていました。 当初、彼はどうすればよいのかほとんど見当もつきませんでした。彼は働くための教育を受けて育ったわけではなく、実務の経験も全くなかったからです。しかし、彼には勇気と、並外れた決断力がありました。 そこで彼はイギリス陸軍の将校の地位(軍籍)を売り払い、苦労の末にニューヨークで職を見つけ、結婚しました。イギリスでの以前の生活からの変化はあまりに大きいものでしたが、彼は若く幸せでした。そして、懸命に働けば、将来きっと素晴らしい道が開けるだろうと希望を抱いていたのです。

2. 文法・表現のロジカル解説

① ほとんど〜ない "scarcely"

scarcely は `hardly` と同様に「ほとんど〜ない」という否定の意味を持つ準否定語です。「全く知らない」わけではないが、「どうしていいかほとんど分からず途方に暮れている」という大尉の困惑を表現しています。

② 助動詞としての need "need expect no..."

ここでは need が助動詞として使われています。否定のニュアンス(no kindness)が含まれるため、「〜する必要がある(期待できる)」という文脈で、「〜を期待することはもはやできない」という確信を伴う客観的な判断を示しています。助動詞のneedは否定文・疑問文のみに使われます。一般動詞のneedは肯定文にも使えますが、[need to 動詞の原型]の形で使われます。

③ 育ちを表す受動態 "had not been brought up to work"

be brought up は「育てられる」という意味です。イギリス貴族の三男として、「労働」とは無縁の教育を受けてきた彼の出自を、過去完了受動態で示しています。それだけに、次の「軍籍を売って働く」という決断がいかに重いものだったかが強調されます。

3. 語彙チェック(発音確認ボタン付き)

単語 意味 発音
sympathized 共感した、同情した
determination 決意、決断力
commission (軍隊の)職権、辞令、軍籍
situation (古風な表現で)職、立場
plenty of たくさんの、十分な

🇬🇧 歴史の裏側:「軍籍売却(Selling a Commission)」とは?

本文で大尉が「Sold his commission(軍籍を売った)」とありますが、現代の感覚では不思議に思えるかもしれません。これには当時のイギリス陸軍の特殊な制度が関わっています。

1. お金で「階級」を買う制度

1871年まで、イギリス陸軍の将校の階級(Commission)は、公的に売買が認められていました。貴族の息子たちは、親から譲り受けたお金で「大尉」や「少佐」といったポストを購入し、軍人としてのキャリアをスタートさせていたのです。

2. 大尉の「背水の陣」

この制度の良い点は、退役する際にその階級を別の人に「売る」ことができた点です。父に絶縁され、仕送りを断たれた大尉にとって、自分が持っている軍籍(Commission)は、新生活を始めるための唯一の「まとまった資金(資本金)」でした。彼は名誉ある軍人の地位を現金化し、それを手にアメリカへ渡ったのです。大尉が売却した『軍籍』は、現在のお金で数百万円から数千万円に相当することもありました。彼にとってこれは、単なる退職金ではなく、家族の命運をかけた唯一の『資本金』だったのです。

3. 19世紀のニューヨーク:夢と苦悩の街

当時のイギリス貴族にとって、アメリカは「何者でもない人間が、努力次第で成功できる場所」でした。労働を卑しいものと考えず、"hard work"(懸命な働き)が尊ばれる自由の国。大尉が新天地にニューヨークを選んだのは、過去の身分を捨て、自分の「実力」だけで家族を養おうとする彼の誇り高い決意の表れだったのです。