【英語精読】『小公子』Vol.5:関係代名詞 what と「so...that構文」で描く運命の出会い(5分解説)
「なんとなく」読む英語から、構造を「確信」して読む英語へ。名作『小公子』第5回は、セドリックの両親の切なくも美しい馴れ初め。少し複雑な「関係代名詞what」や「助動詞の推量」が含まれる一文を、論理的に紐解きましょう。
1. 今日のテキスト(音声付き)
He and his mamma knew very few people, and lived what might have been thought very lonely lives, although Cedric did not know it was lonely until he grew older and heard why it was they had no visitors. Then he was told that his mamma was an orphan, and quite alone in the world when his papa had married her. She was very pretty, and had been living as companion to a rich old lady who was not kind to her, and one day Captain Cedric Errol, who was calling at the house, saw her run up the stairs with tears on her eyelashes; and she looked so sweet and innocent and sorrowful that the Captain could not forget her.
【意訳】
セドリックとお母さんは、ごく限られた人としか付き合わず、傍目にはとても孤独に思えるような生活を送っていました。もっとも、セドリック自身は大きくなって、なぜ自分たちの家には誰も訪ねてこないのかという理由を聞くまでは、それが孤独だとは気づいていませんでしたが。やがて彼は、お母さんは孤児であり、パパと結婚した時はこの世界にたった一人きりだったのだと教えられました。お母さんはとても美しく、当時は意地悪な裕福な老婦人の話し相手(コンパニオン)として暮らしていました。ある日、その屋敷を訪ねたセドリック・エロール大尉は、彼女が目に涙を浮かべて階段を駆け上がっていくのを見かけました。その姿があまりに愛らしく、清らかで、そして悲しげだったので、大尉は彼女のことを忘れることができなくなったのです。
2. 文法・表現のロジカル解説
① 複号関係代名詞 what と推量の助動詞 "what might have been thought"
what は「〜すること・もの」という意味で、ここでは lived の目的語になっています。さらに might have been 過去分詞 が組み合わさることで、「(他人が見れば)〜だったと思われたかもしれない(ような生活)」という、客観的な視点を加えた格調高い表現になっています。
② 因果関係を導く "so ... that ..." 構文
「非常に……なので〜だ」というおなじみの形です。ここでは `sweet` (愛らしい), `innocent` (清らかな), `sorrowful` (悲しげな) という3つの形容詞が並び、それらが重なった結果、大尉が「忘れられなくなった」という強い結末を導いています。
③ 知覚動詞の描写 "saw her run up the stairs"
see + 目的語 + 動詞の原形 で「(目的語)が(〜するの)を目撃する」という意味になります。動作の一部始終をパッと目にした躍動感があり、大尉が彼女に目を奪われた瞬間が鮮やかに描かれています。
3. 語彙チェック(発音確認ボタン付き)
| 単語 | 意味 | 発音 |
|---|---|---|
| orphan | 孤児 | |
| companion | (裕福な人に雇われる)話し相手、付き添い | |
| eyelashes | まつげ | |
| innocent | 純真な、無垢な | |
| sorrowful | 悲しみに満ちた |
【深掘りコラム】歴史と心理から見る「運命の瞬間」
1. 社会的背景:19世紀の「Lady's Companion」という職業
セドリックの母が務めていた「コンパニオン」は、当時の階級社会における非常に特殊なポジションでした。彼女たちはメイドのような「肉体労働者」ではなく、あくまで雇い主の**「話し相手であり、精神的な同伴者」**でした。
- 高潔ゆえの苦悩: コンパニオンになるのは、教育を受けたが身寄りのない「没落した中産階級の娘」が中心でした。教養があるため下働きの使用人と仲良くすることもできず、かといって家族の一員でもない。テキストにある「老婦人が優しくなかった」という描写は、当時のコンパニオンが陥りやすかった**「精神的な孤立」**をリアルに反映しています。
2. 心理学的側面:なぜ大尉は「涙」に恋をしたのか?
大尉が彼女に目を奪われたのは、単に顔が綺麗だったからではありません。心理学的な視点で見ると、ここには**「脆弱性の力(Power of Vulnerability)」**が働いています。
- 感情のコントラスト: 華やかな屋敷の中で、一人涙を浮かべて階段を駆け上がる姿。この「美しさ」と「悲しみ」の激しい対比が、見る者の保護欲求と強い関心を瞬時に引き出しました。
- 初対面のインパクト: 心理学では、最初に受けた強い感情的な印象がその後の評価を決定づけると言われます(初頭効果)。大尉にとって彼女は、最初から「守るべき尊い存在」として心に刻印されたのです。
3. 母・ディアレストの本当の品格
老伯爵が抱いた「財産目当ての女」という偏見がいかに的外れであったかは、彼女が「コンパニオン」という、誇り高くも孤独な職業を自ら選んで生きていたことからも分かります。父モーリスが大尉という地位を捨ててまで選んだのは、逆境にあっても損なわれない**彼女の気品と知性**そのものだったのです。