【解説】なぜ「中国で稼いだお金」を日本に持ち帰るのは大変なのか?
中国ビジネスの「見えない壁」
「日本の企業が中国で儲けた利益を、日本に持ち帰るのが難しい」。
これは、実は多くの中国進出企業にとって「公然の秘密」とも言える悩みです。
しかし、中国の法律を調べてみると「利益の送金は自由」と書いてあります。中国政府も「制限なんてしていません」と公式に否定しています。
法律ではOKなはずなのに、なぜ現場では「持ち帰れない」という悲鳴が上がるのでしょうか?
今回は、そのカラクリを分かりやすく解説します。
1. 「禁止」ではなく「意地悪」? 役所のサジ加減
結論から言うと、中国当局は法律で送金を禁止しているわけではありません。その代わりに使っているのが、「行政のサジ加減(裁量)」という強力な武器です。
建前と本音のギャップ
- 建前(公式ルール): 手続きさえすれば、利益は自由に送金できます。
- 本音(現場の実態): 「今は外貨を減らしたくないから、手続きをわざと遅らせよう」。
例えば、企業が利益を日本へ送ろうと銀行に行くと、「書類が足りない」「審査に時間がかかる」「上の承認が降りない」といった理由で、数週間、あるいは数ヶ月待たされることがあります。ダメとは言わないけれど、OKとも言わない。これが実態です。
2. なぜ中国はそんなことをするのか?
単なる嫌がらせではありません。これには、中国という国の経済を守るための必死な戦略があります。
国の金庫(外貨準備)を守るため
中国経済が悪化したり、アメリカとの関係が悪くなったりすると、企業は不安になって一斉にお金を海外へ逃がそうとします。これを放置すると、中国国内から「ドル」や「円」が消え、中国の通貨(人民元)の価値が暴落してしまいます。
これを防ぐため、中国政府は「ダムの水門」を調整するように、危機の時には送金審査を厳しくして、お金の流出を物理的に止めてしまうのです。
3. 日本企業が直面する3つのリスク
この「見えない壁」によって、日本企業には具体的にどんな困ったことが起きるのでしょうか。
① 送金タイミングが読めない
「今月中に資金を日本に送って、株主への配当に使いたい」と計画していても、審査で止められれば計画は崩壊します。いつお金が届くか分からないという不安定さは、経営にとって大きなリスクです。
② 為替レートで損をする
送金手続き中に人民元の価値が下がってしまったらどうなるでしょうか?
本来1億円で送れるはずだった利益が、手続きが数ヶ月遅れたせいで、着金した時には9000万円の価値しかなくなっている、ということが現実に起こります。
③ 再投資への誘導
お金を持ち出せないなら、仕方なく中国国内で使うしかありません。結果として、本来は必要なかった設備投資や現地での運用にお金が回され、グローバルな資金戦略が歪められてしまうこともあります。
まとめ:どう向き合うべきか
「中国からお金を持ち出せない」という話は、法律上の「禁止」ではなく、経済状況に応じて厳しさが変わる「運用の問題」です。
中国の経済が不安定になったり、米中対立が激しくなったりすると、この審査はより厳しくなります。中国でビジネスをする以上、「送金には時間がかかるもの」「最悪の場合、しばらくお金が動かせなくなる」というリスクを前提に、余裕を持った資金計画を立てることが何より重要です。