予言は的中した:メガチップスのV字回復と「攻めの自社株買い」の真意
前回の記事で、私はメガチップスの第1四半期の赤字について「嵐の前の静けさ」であり、任天堂の新型機効果による回復は時間の問題であると予測した。そして2025年11月7日、同社が発表した第2四半期(中間期)決算は、その予測が正しかったことをこれ以上ない形で証明するものとなった。
メガチップスの業績不振はなぜ?任天堂の新ハードから読み解くファブレス経営の今後 - 月影
赤字からの鮮やかな脱却、驚きの大幅増配。そして何より注目すべきは、「借金をしてまで自社株買いを行う」という、一見不可解に見えて実は極めて合理的な経営判断だ。
1. 証明されたV字回復:本業が稼ぐ力を取り戻した
第1四半期(4-6月)には約3.8億円の営業赤字を計上し、市場に不安を与えたメガチップス。しかし、今回発表された第2四半期累計(4-9月)の営業利益は、10.2億円の黒字に着地した。
この数字が持つ意味は重い。単純計算すれば、第2四半期(7-9月)のたった3ヶ月間で、約14億円もの営業利益を稼ぎ出したことになるからだ。決算資料には「アミューズメント事業(任天堂向け)において第2四半期の需要が前年同期を上回った」と明記されており、ついに主力事業のエンジンが再点火したことが確定した。
2. 巨額資産の開放:投資家へのサプライズ
本業の回復以上に市場を驚かせたのは、株主還元の強化だ。同社は通期の配当予想を、従来の1株あたり140円から210円へと大幅に引き上げた。
この原資となっているのは、同社が保有する米SiTime社の株式だ。この半年でSiTime社の株価が上昇したことにより、メガチップスの純資産は1,696億円(3月末比で約514億円増)にまで膨れ上がっている。
3. なぜ「借金」をしてまで自社株買いをするのか?
今回の決算で最も興味深い動きは、これまで無借金に近い経営を続けてきた同社が、85億円の短期借入金を計上し、同時に約51億円もの自社株買いを断行した点だ。
「手元の現金が減っているのに、なぜ借金をしてまで株を買うのか?」と疑問に思うかもしれない。しかし、財務データを紐解くと、これが守りではなく「強烈な攻めの一手」であることが見えてくる。
理由①:株価が「実力」よりも安すぎる(PBR是正)
決算書を確認すると、SiTime株の高騰により、1株あたり純資産(BPS)は10,490円という驚異的な水準に達している。もし市場の株価がこれより安ければ、会社にとっては「1万円の価値があるものを、バーゲン価格で買い戻せる」状態にある。この歪みを是正するために、自ら買い向かうのは投資理論として正しい。
理由②:肥満化した資産のスリム化(ROE向上)
純資産が急増しすぎると、経営効率を示す指標であるROE(自己資本利益率)は、分母が大きくなるため下がってしまう。自社株買いで資産を圧縮(株主へ還元)することは、「ただ資産を寝かせているわけではない」という投資家へのアピールであり、経営効率を高めるために不可欠な処置だ。
理由③:確実な入金の自信
あえて借金を選んだのは、資金繰りのメドが完全についているからだ。Switch 2向けの売上入金と、SiTime株の売却益が近い将来入ってくることは確実である。今の借金は、その入金までの「ほんの数ヶ月のタイムラグ」を埋めるためのつなぎに過ぎない。
つまり、経営陣は「将来の入金は確実。株価は割安。ならば、今のうちに借金をしてでも株主価値を上げるべきだ」という、極めて合理的かつ自信に満ちた判断を下したのだ。
結論:収穫の季節が始まった
今回の決算で、メガチップスを取り巻く霧は完全に晴れた。
- 本業の復活:任天堂向けビジネスは完全な回復軌道に乗った。
- 資産の活用:SiTime株という「宝の山」を切り崩し、株主へ還元するフェーズに入った。
- 経営の自信:通期の純利益予想を40億円から90億円へ倍増させたことが、今後の見通しの明るさを物語っている。