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日々の雑感

お酒に弱い・顔が赤くなる原因は遺伝子? ルーツは古代中国「百越」族か

🍶 お酒で顔が赤くなる人、必見!その「体質」、ルーツは古代中国の”海の民”にあった?

飲み会で、ビールを一口飲んだだけなのに、すぐに顔が真っ赤になってしまう…。

「お酒に弱いんだね」とよく言われるその体質。実はそれ、単なる個人の体質ではなく、数千年前にさかのぼる壮大な「歴史の証」かもしれません。

最近の研究で、私たち東アジア人特有のこの「フラッシング(顔面紅潮)」現象が、古代中国南部に住んでいた「百越(ひゃくえつ)」と呼ばれる人々に行き着く可能性が示されました。(最後の参考文献を見てください)

あなたのその体質は、一体どこから来たのか? 壮大な遺伝子の旅をたどってみましょう。

1. なぜ顔が赤くなる? 科学的な「二日酔い」の正体

まず、なぜ私たちはお酒で顔が赤くなるのでしょうか。

  1. アルコールを飲むと、体内でアセトアルデヒドという有害物質に分解されます。
  2. 本来なら、ALDH2という酵素が、このアセトアルデヒドを無害な酢酸(お酢の成分)に素早く分解してくれます。
  3. しかし、東アジア人(中国、韓国、日本)の多く(約4割)が持つ特定の遺伝子変異(ALDH2*487Lys)(ミトコンドリアALDH2タンパク質の487番目がリシンに変化した変異)は、このALDH2酵素の働きが極端に弱い「低性能タイプ」なのです。一方で、ヨーロッパやアフリカの人たちはほとんど持っていませんので、お酒が強いです。

結果、有毒なアセトアルデヒドが体内に溜まり、顔の紅潮、動悸、吐き気といった、あの不快な「フラッシング」を引き起こします。

2. 「お酒に弱い」遺伝子が持つ「諸刃の剣」

この遺伝子変異は、私たちの健康に「両刃の剣」として作用します。

  • 🛡️ 保護作用(メリット):
    不快な症状が出るため、お酒をたくさん飲めません。その結果、アルコール依存症になるリスクが大幅に低下します。
  • ⚠️ リスク増大(デメリット):
    もし無理して飲酒を続けると、分解されないアセトアルデヒドが体内に残り続け、食道がんなどの消化管がんのリスクが大幅に増加します。

「お酒に弱い」のは、体が「これ以上は危険だ!」と警告してくれているサインなのです。

3. 遺伝子の起源は「百越(ひゃくえつ)」族

では、この「低性能タイプ」の遺伝子はどこで生まれたのでしょうか?

研究チームが東アジア全域で遺伝子分布を調査したところ、驚くべき地理的な偏りが見つかりました。

  • 高頻度な地域: 中国の南海岸、東海岸雲南省
  • 低頻度な地域: 中国の内陸部、北部

この分布パターンは、ある古代民族の居住地と見事に一致します。それが、「百越(ひゃくえつ)」です。

🌀 百越とは何者か?

百越とは、古代中国の長江(揚子江)より南の広大な沿岸地域に住んでいた諸民族の総称です。彼らは北方の漢民族とは異なる文化を持ち、稲作海洋活動(航海)に非常に長けた人々でした。

4. 百越族はどこへ消えたのか?

彼らの運命は、歴史の荒波の中で大きく二つに分かれました。

  1. 漢民族との「融合」
    秦の始皇帝による統一以降、北方の漢民族が戦乱などを逃れて大量に南下してきました。長い年月をかけ、多くの百越族は南下してきた漢民族と混血・同化していきました。
    (※現代の「南方漢民族」と呼ばれる人々が、この遺伝子を多く持つのはこのためです)
  2. 「分離」と新たな民族の形成
    同化を拒んだり、地理的に隔離されていたりした集団は、山間部や僻地へ移住しました。彼らが、現代の中国南部に住むチワン族、リー族、ヤオ族、ミャオ族などの少数民族の祖先の一部となったと考えられています。

5. そして、遺伝子は海を渡り日本へ…

ここからが、私たち日本人にとって最も興味深い話です。

「百越は稲作と航海に長けていた」

このキーワードにピンと来た方もいるかもしれません。

有力な学説の一つとして、百越の中でも特に長江下流域(「呉越」と呼ばれた地域)にいた人々の一部が、水稲耕作の技術と共に海を渡り、日本列島にやってきたとされています。

そう、彼らこそが、日本の歴史を大きく変えた弥生人倭人)」の主要な祖先集団の一つだと考えられているのです。

まとめ:あなたの頬に宿る、数千年の歴史

お酒を飲んだ時に現れる「顔の赤み」。

それは、あなたが古代中国南部の”海の民”「百越」の遺伝子を受け継いでいる証かもしれません。

その遺伝子は、漢民族との融合の歴史を生き抜き、またある時は、稲作文化と共に荒波を越えて日本列島へとたどり着きました。

次に顔が赤くなったら、コップの中の液体を眺めながら、数千年前に海を渡ったご先祖様たちの壮大な旅に、思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

参考文献

Luo HR, Wu GS, Pakstis AJ, Tong L, Oota H, Kidd KK, Zhang YP. Origin and dispersal of atypical aldehyde dehydrogenase ALDH2*487Lys. Gene. 2009 Apr 15;435(1-2):96-103. doi: 10.1016/j.gene.2008.12.021. PMID: 19393179。