国別の平均寿命の差を深掘りしてみた。
「女性は男性より長生き」
これは、世界中の多くの国で「当たり前」とされている現象です。実際、WHO(世界保健機関)のデータを見ても、ほぼすべての国で女性の平均寿命は男性を上回っています。
しかし、その「差」がどれくらいあるかは、国によって大きく異なります。
例えば、アルコール消費量が非常に多いことで知られるロシアやウクライナなどの国々では、男女の平均寿命の差が10年以上に達することもあります。これは世界的に見ても非常に大きな差です。
一方で、イスラム教徒が多数を占める国々(中東や北アフリカ、アジアの一部)では、この男女の寿命の差が比較的小さい傾向にあります。
各国の平均寿命の比較(男女差)
実際のデータを見てみると、その差は一目瞭然です。アルコール消費が(宗教的に)極めて少ないイスラム諸国と、そうでない国々を比べてみましょう。
| 国名 | 分類 | 男性の平均寿命 | 女性の平均寿命 | 男女差 |
|---|---|---|---|---|
| クウェート | イスラム諸国 | 82.7歳 | 83.7歳 | 1.0年 |
| アラブ首長国連邦 | イスラム諸国 | 82.0歳 | 84.2歳 | 2.2年 |
| サウジアラビア | イスラム諸国 | 77.1歳 | 81.2歳 | 4.1年 |
| イギリス | その他 | 79.7歳 | 83.5歳 | 3.8年 |
| アメリカ | その他 | 75.8歳 | 81.1歳 | 5.3年 |
| 台湾 | その他 | 78.1歳 | 83.9歳 | 5.8年 |
| 韓国 | その他 | 81.4歳 | 87.4歳 | 6.0年 |
| 日本 | その他 | 81.1歳 | 87.1歳 | 6.0年 |
| ロシア | その他 | 68.0歳 | 79.0歳 | 11.0年 |
なぜ男女で寿命に差が出るのか?(本題)
男女の寿命の差が生まれる理由は、大きく分けて2つあります。
- 生物学的な要因
女性ホルモンの影響や遺伝子の違いなど、女性が生物学的にもともと長生きしやすい要因があると言われています。 - 生活習慣や社会的な要因
こちらが国による差を生む大きな要因です。特に男性の寿命を縮める大きなリスクとして知られているのが、「喫煙」「危険な行動(運転や仕事など)」そして「過度な飲酒」です。
「お酒」は男性の寿命を不均衡に縮めている
世界的に見て、お酒が原因で亡くなる人の数は、男性が女性を圧倒的に上回っています。
WHOの報告によれば、2019年にアルコールが原因で亡くなった260万人のうち、なんと200万人は男性でした。
これは、世界的に男性の方が飲酒量が多く、一度に大量に飲むといった危険な飲酒習慣に陥りやすいためです。過度な飲酒は、肝臓の病気、がん、心臓や血管の病気を引き起こすだけでなく、事故や暴力による死亡リスクも高めます。
つまり、お酒をたくさん飲む国ほど、男性の寿命が著しく押し下げられ、結果として男女の寿命の差が大きく開いてしまうのです。
【本題】イスラム諸国とアルコールの関係
ここで本題です。イスラム教の教えでは、原則として飲酒は禁じられています。
そのため、上の表で見たサウジアラビアやクウェート、アラブ首長国連邦といったイスラム諸国では、国民一人当たりのアルコール消費量が「ほぼゼロ」という、世界で最も低い水準にあります。一方で、喫煙は認められており、男性は他の国と同じくらいタバコを嗜んでいます。
これが何を意味するか、もうお分かりですね。
結論:お酒を飲まないから「差」が小さい可能性が高い。
イスラム諸国で男女の平均寿命の差が比較的小さい最大の理由は、
男性の寿命を縮める主要なリスク要因である「アルコール消費」が、そもそも極端に少ないから
だと考えられます。
多くの国では、お酒の影響で男性の寿命が(本来あるべき姿よりも)不自然に短くなっており、その結果、女性との差が大きく開いています。
しかしイスラム諸国では、その「お酒によるマイナス要因」が男性に働かないため、生物学的な差はありつつも、他の国々ほど男女の差が大きくならないのです。
ただし、もう一つの視点も
もちろん、理由がこれだけとは限りません。
一部の国では、女性の社会的な地位や、医療サービスへのアクセスのしやすさといった別の要因が、女性の平均寿命の伸びを抑えている可能性も指摘されています。その結果として、男女差が縮まっている側面もあるかもしれません。
とはいえ、「イスラム諸国で男女の寿命の差が小さい」という現象の背景には、「お酒を飲まない」という文化・習慣が、男性の健康を守る上で非常に大きな役割を果たしていることがある、と言えそうです。