あなたのスマホが人質に?見えない独占「レアアース」の恐るべき真実
「レアアース」という言葉、ニュースで耳にしたことはありますか?
レアアースは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)とランタノイド15元素を合わせた17元素の総称であり、その特性に応じて軽希土類(LREE)と重希土類(HREE)に大別されます。レアアースを合金、磁石、触媒などに微量添加するだけで素材の性能を劇的に向上させます。
実はこれ、あなたが今使っているスマートフォンやパソコン、毎日乗るかもしれない電気自動車(EV)に必ず入っている、超重要な物質なんです。あまりに重要なため、「産業のビタミン」や「魔法の材料」とも呼ばれています。
しかし、もしこの「ビタミン」の供給を、世界でたった一つの国がコントロールしているとしたら…?
これはSF映画の話ではありません。私たちの生活のすぐ裏側で起きている、静かで、しかし極めて深刻な問題の始まりです。今回は、現代社会のアキレス腱とも言える「レアアース」の地政学的な世界を覗いてみましょう。
そもそも「レアアース」って何?なぜそんなに大事なの?
レアアースは17種類の元素の総称です。その最大の特徴は、ほんの少し混ぜるだけで、製品の性能を劇的にパワーアップさせる点にあります。
- 強力な磁石に!:EVのモーターや風力発電のタービンに不可欠な「ネオジム磁石」。これがなければ、クリーンエネルギーへの移行は夢のまた夢です。F-35戦闘機のような最新兵器も、この磁石なしでは機能しません。
- 美しいディスプレイに!:スマホやテレビの画面が鮮やかな色を映し出せるのは、レアアースのおかげです。
- 精密な加工に!:半導体の製造やスマホの画面を磨き上げる工程でも大活躍しています。
つまり、レアアースは「環境問題」と「国家の安全保障」という、現代国家の最重要テーマ両方の心臓部を握っているのです。
中国の本当の恐ろしさ ー 「掘る」より「分ける」を独占
「レアアースは中国がたくさん掘っている」というイメージは、間違いではありません。しかし、問題の本質はもっと根深いところにあります。
レアアースのサプライチェーンは、ざっくり3段階に分けられます。
- ① 掘る(採掘):地面から鉱石を取り出す。
- ② 分ける(分離・精製):鉱石の中から、多種類のレアアースを一つずつ取り出す。
- ③ 作る(製品化):磁石や合金など、実際に使われる形に加工する。
ここで、中国の世界シェアを見てみましょう。
- ① 「掘る」段階のシェア:約69%
- ② 「分ける」段階のシェア:85~92%
- ③ 「作る」(永久磁石)段階のシェア:90%以上
お気づきでしょうか? 中国の本当の強みは、鉱石を掘り出す量だけではありません。サプライチェーンのど真ん中、最も技術的に難しく環境負荷も高い「分ける(分離・精製)」工程を、ほぼ完全に独占している点にあります。そして、それを行なっているのが、中国の国営企業です。
これは、たとえアメリカやオーストラリアが自国でレアアースを掘っても、それを製品にするためには、結局中国に送らなければならない、という皮肉な現実を生み出しています。中国以外の国で掘られた鉱石でさえ、中国の支配力をさらに強める手助けをしてしまっているのです。
歴史が証明する「武器」としてのレアアース
今、アメリカの追加関税に対して、中国は、レアアースの輸出規制をしようとしており、貿易戦争のようになっています。
「まさか輸出を止めるなんて…」と思うかもしれません。しかし、それは実際に起きた過去です。
2010年、日中関係が緊迫した際、中国は日本向けのレアアース輸出を事実上ストップしました。世界中で価格が高騰し、日本をはじめとする西側諸国は自らの脆弱性を痛感させられました。この「レアアース・ショック」は、レアアースがいつでも地政学的な「武器」になりうることを世界に知らしめた事件でした。
その後、中国はこのやり方が国際社会で通用しないことを学び、戦術をより巧妙なものに変えました。「輸出制限」ではなく、「国内の生産量管理」や「環境保護」といった、国際的にも文句を言われにくい国内ルールを盾にして、実質的な市場支配を続けているのです。