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日々の雑感

無印良品、過去最高益でも残る課題とは?2025年8月期決算から読み解く成長戦略と「脱・ファブレス」の真意

 

絶好調「無印良品」の死角はどこか?売上1兆円への道と「脱・ファブレス化」の真意

2025年10月10日に発表された株式会社良品計画の2025年8月期決算は、まさに絶好調という言葉がふさわしい内容でした。営業収益は前期比18.6%増の7,846億円、営業利益は同31.5%増の738億円と、3期連続で過去最高益を更新する見込みです。国内では「無印良品週間」が起爆剤となり、既存店+EC売上は113.5%という驚異的な伸びを記録。海外でも中国大陸や欧米事業が力強く回復し、世界的なブランドとしての地位を固めつつあります。

しかし、この華々しい決算発表の裏で行われた質疑応答では、投資家から将来の収益性に対する鋭い質問が相次ぎました。好調な売上の陰で、良品計画が直面する「成長の痛み」とは何か。そして、その課題を乗り越えるために彼らが選んだ「内製化」という戦略の真意はどこにあるのでしょうか。本記事では、決算データと質疑応答から、良品計画の現在地と未来を深掘りします。

「増収」の裏で懸念される「利益率の低下」という現実

まず、ポジティブな面を見てみましょう。良品計画の強さは、その圧倒的な商品開発力とブランド力にあります。これまでの衣服・雑貨、食品に加え、近年注力している「ヘルス&ビューティー」カテゴリーは国内売上1,000億円を突破する巨大な柱に成長しました。このように顧客の生活に寄り添う商品を次々と生み出すことで、国内外で新たなファンを獲得し続けています。

しかし、投資家が懸念しているのは、その成長を持続可能な「利益」に繋げられるかという点です。今回の質疑応答で最も核心を突いていたのは、販管費(販売費及び一般管理費)のコントロールに関する問題です。

注目すべきは、2026年8月期の会社見通しです。営業収益は8,600億円へとさらに成長する計画ですが、営業利益率は2025年8月期の9.4%から9.2%へとわずかに悪化する見込みなのです。その最大の要因は、IT関連経費やグローバルな体制構築に伴う販管費の増加です。

これは、企業が急成長する過程でしばしば見られる現象です。売上を伸ばすために世界中で出店を加速し、ECを強化し、物流網を整備するには莫大な先行投資が必要となります。良品計画は今、まさにその「投資フェーズ」の只中にあり、「稼ぐ力」よりも「使う費用」が一時的に上回る構造になっているのです。投資家たちは、「このコスト増は一時的なものなのか?」「掲げている2028年8月期の営業利益率10%という目標は本当に達成可能なのか?」という点に強い関心を寄せています。

良品計画の成功は「ファブレス」だったのか?

ここで一度、良品計画のビジネスモデルの根幹に立ち返ってみましょう。よく「無印の成功はファブレス経営にある」と言われることがあります。ファブレスとは、自社で生産工場を持たず、製品の設計や開発に特化し、生産は外部の協力工場に100%委託する経営スタイルです。

しかし、正確に言うと良品計画は純粋なファブレスではなく、「SPA(製造小売業」モデルです。自社で商品を企画・デザインし、生産を外部に委託、そして自社の店舗で販売まで一貫して行う業態です。このモデルのメリットは、工場建設などの巨額な設備投資を抑えながら、ブランドの世界観を反映した商品をスピーディーに開発できる点にあります。この身軽さが、これまでの良品計画の成長を支えてきたことは間違いありません。

なぜ今、「内製化」を進めるのか?

そのSPAモデルを基本としてきた良品計画が、今「生産体制の内製化」という、一見すると時代の流れに逆行するような戦略を打ち出しているのはなぜでしょうか。決算資料や質疑応答の端々から、その理由は3つ見えてきます。

  1. 収益性の改善(コストコトロール

    質疑応答で繰り返し懸念された「販管費の増加」と「利益率の低下」に対する直接的な答えが、この内製化です。外部工場に100%依存するモデルは、近年の急激な円安や原材料価格の高騰といった外部環境の変化を直接受けてしまいます。サプライチェーンの一部を自社でコントロールすることで、為替変動の影響を緩和し、原価を安定させることが可能になります。これは、値下げに頼らずとも営業総利益率を改善するための、守りであり攻めの戦略なのです。

  2. サプライチェーンの安定化と品質管理

    コロナ禍で世界中のサプライチェーンが混乱したことは記憶に新しいでしょう。人気商品が欠品したり、逆に過剰在庫を抱えてしまったりするリスクは、グローバルに事業を展開する企業にとって致命的です。生産工程への関与を深めることで、需要予測の精度を高め、必要な商品を必要な時に必要な量だけ生産する体制を構築しやすくなります。これは、無駄な値引きを減らし、ブランド価値を維持することにも繋がります。

  3. グローバル基準の確立

    「シンプルなデザイン」「高い品質」という無印のブランドイメージを、世界1,000以上の店舗で維持するのは容易ではありません。特に欧米や東南アジアなど、文化や商習慣が異なる地域で品質を均一に保つには、生産段階からのより強いコミットメントが不可欠です。内製化は、世界中のどこで手に取っても「無印良品」の品質だと顧客が安心できる体制を築くための布石と言えます。

結論:良品計画は「成長の壁」を乗り越えられるか

良品計画は今、売上1兆円企業へと飛躍するための重要な岐路に立っています。その道は決して平坦ではありません。グローバル展開に伴う先行投資は、短期的には利益率を圧迫します。

しかし、同社はその課題を明確に認識し、「生産性向上委員会」を立ち上げ、コスト構造の聖域なき見直しに着手しています。そして、これまで成功の基盤であったSPAモデルに安住することなく、「内製化」という新たな一手を打ち、より筋肉質で収益性の高い事業構造への転換を図ろうとしています。

良品計画が直面しているのは、経営危機ではなく、さらなる高みを目指すための「成長の痛み」です。この痛みを乗り越え、売上と利益を両立させることに成功した時、無印良品は日本を代表する真のグローバルブランドとして、新たなステージに進むことになるでしょう。その挑戦から、私たちはまだ目が離せません。

「本記事は、情報提供を目的としたものであり、特定の企業の株式購入や投資を推奨するものではありません。投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。」

参考WEBサイト

IR情報 | 株式会社良品計画

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