月影

日々の雑感

日本の半導体戦略、なぜ今?TSMC誘致の裏側

 

なぜ今、日本で半導体工場が次々建つのか?知られざる国家戦略のウラ側 🇯🇵💡

最近、ニュースで「半導体」という言葉をよく耳にしませんか?特に熊本では、台湾の巨大企業TSMCの工場ができて、街が活気づいていると話題です。

「日本の半導体は昔はすごかったけど、もう終わったんじゃ…?」
「なんで今さら、昔の技術の工場を建てているの?」

そう思う方も多いかもしれません。しかし、この一連の動きの裏には、過去の失敗を徹底的に反省し、日本の未来を賭けた壮大な国家戦略が隠されています。今回は、その知られざるウラ側を、誰でもわかるように解説します!

www.namuamidabu.com


主役は「最先端」じゃない?わざわざ「古い技術」の工場を建てるワケ

驚くかもしれませんが、今、日本で建設ラッシュとなっている工場の多くは、スマホの頭脳(CPU)などを作る「最先端」のものではありません。40nm(ナノメートル)から90nmという、数世代前の「成熟した」技術、通称「成熟ノード」の半導体を作る工場なのです。

「古い技術なんて、もういらないんじゃないの?」と思いますよね。でも、それは大きな間違いです。

2024/03/08 政策特集半導体の現在地 vol.2 日本は半導体でどう勝つか? 経産省の野原局長が疑問にとことん回答

実はこの成熟ノード半導体は、私たちの生活に欠かせない「縁の下の力持ち」なんです。

  • 🚗 自動車: エンジンやブレーキ、エアバッグを制御する頭脳(マイコン
  • 💡 家電: エアコンや冷蔵庫、テレビの動きをコントロールする部品
  • 🏭 産業機械: 工場のロボットやセンサーを動かすチップ

これらの製品には、最先端の超高性能な半導体は必要ありません。それよりも、「高い信頼性」「安定性」「そして何より安いコスト」が求められます。成熟ノードは、まさにその要求にピッタリなのです。

この流れが決定的になったのが、コロナ禍で世界を襲った「半導体不足」でした。特に自動車業界は深刻な打撃を受け、半導体が一つ足りないだけで工場の生産ラインが止まり、新車が作れないという事態に陥りました。この時、自動車メーカーをはじめとする半導体の「ユーザー企業」から、「サプライチェーンを国内に戻してほしい」という切実な声が政府に殺到しました。

経団連:産業技術立国への再挑戦 (2022-10-11)

半導体を作る側だけでなく、使う側からの強い突き上げこそが、経済産業省を本気で動かす最大の引き金となったのです。


なぜ日本は負けたのか?「自前主義」という名のワナ

1980年代、日本の半導体は世界シェアの50%を占める「王者」でした。それがなぜ、台湾や韓国に追い抜かれてしまったのでしょうか?

最大の理由はビジネスモデルの変化に乗り遅れたことです。

昔の日本(垂直統合型 / IDM
設計から製造まで、全部自分でやる「一貫生産」モデル。品質は良いが、莫大な設備投資が重荷になり、動きも遅い。
今の世界標準(水平分業型)

例えるなら、日本のやり方は「畑も牧場も経営する高級レストラン」。一方、世界の主流は「最高の食材を仕入れて調理に専念するレストラン(ファブレス)」と「最高の食材を作るプロの農家(ファウンドリ)」という分業体制です。

どちらが効率的で、コストを安くできるかは一目瞭然ですよね。日本は「全部自前」という過去の成功モデルに固執した結果、製造のプロであるTSMCとのコスト競争に敗れ、収益を上げられなくなってしまったのです。


発想の大転換!「Made by Japan」から「Made in Japan」へ

この苦い失敗と、ユーザー企業からの悲鳴にも似た要望を受け、経済産業省が打ち出した新しい国家戦略は、実に大胆で現実的なものでした。

「自前で勝てないなら、世界最強のプレイヤーを日本に呼んでしまおう!」

これが、熊本にTSMCの工場を誘致した理由です。政府は4,760億円もの巨額の補助金を出し、世界No.1の製造工場を国内に確保することを選びました。

ここでの重要なポイントは、戦略のゴールが「日本企業が作ること(Made by Japan)」から「日本の国内で作られること(Made in Japan)」へと、完全に変わったことです。

企業の国籍は問わない。とにかく、経済の生命線である半導体を、海外の情勢に左右されないよう国内で確保する。これが「経済安全保障」という新しい国家目標の核心なのです。


日本の未来を賭けた「二正面作戦」

現在の日本の戦略は、大きく分けて2つの柱で進められています。

  1. 守りの一手:今すぐ必要な半導体を確保する
    TSMCの誘致がこれにあたります。自動車や産業機器に不可欠な「成熟ノード」の安定供給網を国内に確立し、足元の経済を守ります。
  2. 攻めの一手:未来の最先端技術で再び世界を狙う
    北海道で建設が進む国策会社「Rapidus(ラピダス)」がその象徴です。ここでは、世界がまだ量産できていない「2nm」という超最先端半導体の開発・生産を目指します。これは、未来の技術で再び世界のリーダーになるための、壮大な挑戦です。

まとめ:目指すは「王者」ではなく、不可欠な「ハブ」

日本の半導体産業が、かつてのように世界の頂点に返り咲くのは難しいかもしれません。しかし、政府と企業が目指しているのは、過去の栄光を取り戻すことではありません。

新しい戦略のゴールは、世界の半導体サプライチェーンの中で、日本が「絶対に欠かすことのできない重要な拠点(ハブ)」としての地位を確立することです。

日本の強みである優れた「素材」や「製造装置」の技術も活かしながら、海外のトップ企業も巻き込んでいく。これは、過去の失敗から学び、現実を見据えた、全く新しい日本の生き残り戦略なのです。

私たちの知らないところで、日本の未来を左右する壮大なゲームが始まっています。今後の動向から目が離せませんね!