血液型はABO型とRh式だけなの?
血液型といえばABO式とRh式が常識ですが、実は国際的に公認されているだけでも45種類もの血液型システムが存在します。 そう聞くと、「輸血の時に調べるのはABOとRhだけなのに、本当に安全なの?」と不安に思いませんか?
ご安心ください。答えは「YES」。 なぜなら、輸血の現場では私たちの知らないところで、さらに重要な検査が行われ、安全が二重三重に守られているからです。この記事では、その知られざる安全の仕組みに迫ります。
【結論】輸血の安全を守る「2つの最終関門」
ABOとRh以外の無数の血液型の不適合を防ぐため、輸血前には必ず以下の検査が行われます。これこそが、輸血の安全を守る「本当の」血液型検査です。
① 不規則抗体スクリーニング
患者さんの血液の中に、まれな血液型と反応してしまう「不規則抗体」がないかを事前に調べます。これは過去の輸血や妊娠によって、ABO式以外の血液型(後述するKell式など)に対して作られることがある抗体です。もしこの抗体が見つかった場合は、その抗体と反応しない血液を日本赤十字社に依頼して探します。
② 交差適合試験(クロスマッチ)
これが安全のための「最終関門」です。輸血を行う直前に、これから輸血する血液製剤と患者さんご自身の血液を試験管の中で直接混ぜて、異常反応(凝集や溶血)が起きないか最終確認をします。この検査により、スクリーニングでも見つけられなかった不適合や、万が一のミスも防ぐことができます。
なぜ追加の検査が必要?無数に存在する「その他の血液型」
「不規則抗体スクリーニング」や「クロスマッチ」は、なぜ必要なのでしょうか。それは、ABOとRh以外にも、輸血に影響を与える可能性のある重要な血液型がたくさん存在するからです。
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Kell(ケル)式血液型: 強い免疫反応を起こしやすく、不適合輸血や新生児の病気の重篤な原因となることがあります。
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Duffy(ダフィー)式血液型: この血液型抗原は、マラリア原虫が赤血球に感染する際の足がかりになります。そのため、この抗原を持たない人は、特定のマラリアに生まれつき抵抗力があります。
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Kidd(キッド)式血液型: この血液型に対する抗体は、輸血から時間が経ってから起こる副作用の原因として知られています。
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MNS式、P1PK式など: 同様に、まれに輸血の不適合の原因となることがあります。
これらの多様な血液型があるからこそ、何重ものチェック体制が不可欠なのです。
【コラム】世界の珍しい血液型と日本の状況
世界には、さらに珍しく、特別なストーリーを持つ血液型も存在します。
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黄金の血「Rh-null(アールエイチ・ナル)」 Rh式の抗原をすべて持たない、世界で50人足らずしか確認されていない極めてまれな血液型。「誰にでも輸血できる」という性質を持つ一方で、「同じRh-nullからしか輸血を受けられない」という厳しい制約があります。日本にも数名の保有者がいると報告されています。
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特殊な遺伝「cisAB(シス・エービー)型」 通常は別々の親から受け継ぐAとBの遺伝子が、1本の染色体に乗っている特殊なタイプ。そのため、通常の遺伝法則ではありえない親子関係(例:AB型とO型の親からは、通常は、A型かB型の子供が生まれます。ところが、cisABの遺伝子を持っている人とO型の親から、O型やAB型の子供が生まれる)が起こりえます。日本では数万人に1人の割合で見つかり、特に徳島県周辺で報告頻度がやや高いことが知られています。
まとめ
私たちが安心して輸血を受けられるのは、ABOとRhという基本的な血液型検査だけでなく、その裏側で行われる「不規則抗体スクリーニング」と「交差適合試験(クロスマッチ)」という徹底した安全確認のおかげです。 血液型の世界は私たちが思うよりもずっと奥深く、その多様性に対応する医療技術によって、私たちの命は守られています。
参考WEBサイト