誰にも輸血できるユニバーサルドナーってどんな人?
緊急手術のニュースで「血液が足りません!」という呼びかけを耳にしたことはありませんか? 私たちの命をつなぐ「輸血」。それは、誰かの善意によって支えられている、現代医療の奇跡です。
しかし、その裏側には非常に精密なルールが存在します。なぜ血液型が一致しないと輸血できないのか? そして、そのルールを超えて、誰にでも血液を分け与えることができる「英雄」がいることをご存知でしょうか?
この記事では、輸血の基本から、知られざる英雄「ユニバーサルドナー」、そしてその対極にいる「ユニバーサルレシピエント」まで、血液型の奥深い世界を詳しく解説します。
輸血の基本ルール:「抗原」と「抗体」
輸血を理解する上で最も重要なのが、「抗原(こうげん)」と「抗体(こうたい)」の関係です。
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抗原: 赤血球の表面にある「名札」のようなもの。A、B、Rh(D)といった種類があります。
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抗体: 血液の液体成分(血漿)の中にある「警備員」です。自分と違う名札(抗原)を見つけると攻撃してしまいます。
もし適合しない血液を輸血すると、体内の「警備員(抗体)」が輸血された血液の「名札(抗原)」を異物とみなして攻撃し、赤血球が破壊される「溶血(ようけつ)」という重い副作用が起きてしまいます。これが、血液型を合わせる必要がある理由です。
| 血液型 | 赤血球の名札 (抗原) | 血中の警備員 (抗体) |
| A型 | A抗原 | 抗B抗体 (Bの名札を攻撃) |
| B型 | B抗原 | 抗A抗体 (Aの名札を攻撃) |
| AB型 | A抗原・B抗原 | なし (警備員がいない) |
| O型 | なし | 抗A抗体・抗B抗体 (AとBの両方を攻撃) |
緊急時の英雄「ユニバーサルドナー」とは?
ここで本題の「ユニバーサルドナー(万能な提供者)」の登場です。その正体はO型Rhマイナス(O-)の血液を持つ人です。
O型の赤血球には、警備員に見つかる「A」も「B」も、どちらの名札(抗原)も付いていません。さらにRhマイナスなので「Rh」という名札もない、いわば「名札のない赤血球」です。
どの血液型の体内に入っても警備員(抗体)に攻撃されないため、患者の血液型が不明な大事故の現場や、適合する血液が不足している緊急事態において、多くの命を救う最後の切り札となります。
もう一人の主役「ユニバーサルレシピエント」
提供者(ドナー)の対極には、受血者(レシピエント)がいます。そして、ここにも「ユニバーサル」な存在がいます。それがAB型の人です。
表の通り、AB型の血液中には警備員である抗A抗体も抗B抗体もいません。警備員がいないため、どの血液型の赤血球が入ってきても攻撃することがないのです。そのため、AB型は「ユニバーサルレシピエント(万能受血者)」と呼ばれます。
※ただし、これはあくまで赤血球輸血における理論上の話です。現在の医療では、安全性を最大限に高めるため、原則として同じ血液型を輸血する「同型輸血」が行われます。
英雄の光と影:ユニバーサルドナーであるということ
「誰にでもあげられる」ことは、まさに英雄の持つ「光」の部分です。しかし、その裏には大きな「影」も存在します。
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【光】誰にでも提供できる、かけがえのない存在 日本人にO型Rhマイナスは約0.15%、およそ670人に1人しかいません。その希少性と万能性から、彼らの血液は「黄金の血」とも呼ばれ、救急医療に不可欠な存在です。彼らの血液で助けられた人はたくさんいるでしょう。
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【影】もらう時は制約が最も厳しい ユニバーサルドナーは「あげる側」としては万能ですが、「もらう側」になると話は別です。O型の人は血液中に「抗A抗体」と「抗B抗体」の両方を持っているため、O型以外の血液は受け付けません。さらにRhマイナスなので、Rhプラスの血液も輸血できません。 つまり、O型Rhマイナスの人は、原則として同じO型Rhマイナスの血液しか輸血できないのです。
英雄の血液は、どうやって準備されるのか?
緊急時に使われる貴重な血液は、その場しのぎで準備されるわけではありません。全ては、事前の善意と厳格な管理体制によって支えられています。
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ステップ2:検査 献血された血液は血液センターに運ばれ、血液型の正確な判定はもちろん、B型肝炎やエイズ(HIV)など、感染症の有無を徹底的に検査されます。この検査には時間がかかるため、献血後すぐに輸血することはできません。
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ステップ4:保管と供給 完成した血液製剤は、種類ごとに最適な温度で厳格に保管されます(赤血球は採血後21日間)。そして、病院からの要請に応じて24時間体制で供給されるのです。
緊急医療は「事前に献血された、安全な血液のストック」によって成り立っているのです。
最後に
輸血の仕組みを知ると、献血という行為がいかに尊いものか、そしてユニバーサルドナーの方々の存在がいかに重要かがわかります。もちろん、どの血液型も医療には不可欠です。この記事を読んで少しでも献血に興味を持っていただけたら、ぜひお近くの献血ルームを探してみてください。
あなたの善意が、未来の誰かの「ライフライン」になるかもしれません。