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日々の雑感

石破内閣、参院選敗北の深層。支持率急落を招いた「共感なき政治」と「石破構文」の罪

2024年10月に国民の期待を背負って発足した石破茂内閣は、わずか9カ月後の2025年7月、参議院選挙で歴史的な敗北を喫しました。

この結果は単なる偶然ではなく、政権が抱えていた構造的な問題が必然的にもたらした帰結と言えるでしょう。本記事では、石破政権がなぜ国民の支持を失ったのか、その核心にある「断絶」を多角的に分析します。国民に寄り添う姿勢がなかったのが主因でしょう。


 

国民の声と政権の優先順位:致命的だった「共感の欠如」

 

2025年参院選における最大の争点は、疑いようもなく経済でした。出口調査によれば、有権者の実に半数以上が投票の際に最も重視した政策として「物価高対策・経済政策」を挙げています。日々の生活を直撃する価格高騰に対し、国民は即効性のある具体的な対策を渇望していました。

しかし、石破政権が発信し続けたメッセージは、国民の切実な声とはかけ離れたものでした。首相が得意とする「外交・安全保障」や、ライフワークである「地方創生」といった長期的・構造的な課題が政策の前面に押し出されたのです。安全保障を重視した有権者はわずか3.7%。この数字の乖離は、政権と国民の間に横たわる深い溝を象徴しています。

国民が「今日のパン」を心配している時に、政権は「10年後の国家の形」を語る。その姿は、国民の苦悩に寄り添うのではなく、自らの信念を優先する「専門家の自己満足」と映ってしまいました。政策の正しさが、必ずしも国民の共感を呼ぶとは限らない。この基本的な事実を、政権は見誤ったのです。


 

「石破構文」という壁:コミュニケーションが招いた断絶

 

政策の不一致に加え、国民との心理的な距離を決定的に広げたのが、首相特有のコミュニケーションスタイル、いわゆる「石破構文」でした。

丁寧で多角的な視点を示そうとするあまり、結論が曖昧になり、本質が伝わりにくい。質問に対して直接的な答えを避け、背景や前提から話し始めるそのスタイルは、平時であれば知的な誠実さと受け取られたかもしれません。しかし、物価高という危機に直面する国民がリーダーに求めていたのは、明快さ、共感、そして決断力でした。

回りくどい説明は、優柔不断さや当事者意識の欠如の表れと見なされ、国民の不満を増幅させました。特に、過去の「商品券問題」が発覚した際、その対応は国民の生活感覚とのズレを決定づけ、支持率急落の引き金となりました。一度失われた信頼は、最後まで回復することはありませんでした。


 

信念のパラドックス:なぜ「強み」が「弱み」になったのか

 

石破茂という政治家の最大の強みは、安全保障や地方創生における深い専門知識と、それに裏打ちされた揺るぎない信念です。しかし皮肉なことに、2025年の政治情勢において、この強みこそが政権を孤立させる最大の要因となりました。これを「信念のパラドックス」と呼ぶことができるでしょう。

 

首相は、自らが正しいと信じる政策(安全保障の強化や地方創生2.0)を国民に理解させようとしました。しかし、国民が求めていたのは、自分たちの苦境を理解し、迅速に行動してくれるリーダーでした。首相をその座に押し上げた「政策通で清廉」というイメージそのものが、国民感情を優先すべき局面で、逆に足枷となったのです。この状況は、選挙後の党内力学に決定的な影響を与えました。山口県連の幹事長が「まず代わるべきは総裁だ」と公然と退陣を要求したことは、かねてより指摘された「党内基盤の脆弱さ」が、もはや政権の存立そのものを脅かす「遠心力」へと変わったことを象徴しています。

 

さらに、党内基盤の脆弱さと、参院選敗北で決定的となった「ねじれ国会」という構造的な制約が、政権の指導力欠如という印象を強固にしました。大胆な経済対策を打ちたくても、党内や野党との妥協を重ねるうちに行動は遅れ、その停滞がさらなる支持率低下を招くという悪循環に陥ったのです。


 

結論:石破政権が残した教訓

 

石破政権の第一章とも言える9カ月間の挑戦と挫折は、現代の政治リーダーシップに重い教訓を投げかけています。それは、リーダーの「信念」は、国民に寄り添う姿勢が伝わって初めて有効な統治力になるということです。

どれほど正しく、緻密に練られた政策であっても、国民の感情や生活実感から乖離していては支持を得られません。選挙後の続投表明は、国民の審判よりも自らの「責務」を優先する姿勢と受け取られ、政権と国民、そして国会との「三重の断絶」を決定づけました。立憲民主党の野田代表が「民意を無視して居座り続けるのか」と断じ、国民民主党の玉木代表が「民意に真摯に向き合っていない」と批判したように、野党は一斉に対決姿勢を強化。国民の審判を代弁する野党からの厳しい言葉は、政権がもはや政治的な正当性すら失いかねない危険な領域に踏み込んだことを示しています。

政権が再浮上するためには、コミュニケーションスタイルや政策の優先順位を根本から変革し、国民の信頼を取り戻すしかありません。しかしそれは、首相が長年かけて築き上げた政治家としてのアイデンティティそのものを否定しかねない、極めて困難な道程となるでしょう。「信念のパラドックス」という根源的な課題を、石破政権は乗り越えることができるのでしょうか。選挙後の野党各党の強硬な姿勢、とりわけ「野党間の連携が取れる形で自公政権に迫る」という方針は、今後の国会運営が単なる「いばらの道」ではなく、重要法案が一切通らない「統治の完全な行き詰まり」に陥る可能性を強く示唆しています。国民との断絶、そして国会との断絶という二重の壁に直面する政権が、この窮地から再浮上する道筋は、現時点では全く見いだせないと言わざるを得ません。

 

参考WEBサイト

参議院選挙速報 開票結果 -参院選2025- NHK

全国|出口調査|zero選挙2025(参議院選挙)|日本テレビ

部下困惑!「石破構文」的な話し方「改革のススメ」 ビジネス現場で「いるいる!」 話し方改善の方法 | リーダーシップ・教養・資格・スキル | 東洋経済オンライン

石破新内閣が発足、最初の記者会見で安全保障に言及(10月1日)|Jディフェンスニュース(自衛隊・防衛省のニュース)

第217回国会における石破茂内閣総理大臣施政方針演説 | 政策 | ニュース | 自由民主党

野党、首相続投を批判 「民意無視の居座り」|47NEWS(よんななニュース)