「あれ?前より風邪ひきやすくなった?」もしかして、あなたの免疫、"老化"し始めてるかも?
歳を重ねるにつれて、なんだか体力が落ちた、疲れやすくなった、そして「あれ?前より風邪ひきやすくなったな」と感じることはありませんか?実は、それ、あなたの免疫システムが、そろそろ「老化」し始めているサインかもしれません。
今回は、なぜ60歳くらいから免疫力が落ち始めるのか、そしてその背後にあるちょっと驚きの「進化の理由」について、わかりやすくお話しします。
なぜ、私たちの免疫は「老化」するの?
私たちの体を病原体から守ってくれる頼もしい免疫システム。実は、これも歳をとると一緒に「老いて」いきます。特に60歳前後からその変化がハッキリしてくるんです。この現象を、専門的には「免疫老化(immuno-senescence)」と呼びます。
主な原因は、以下の3つ!
1. 司令塔「T細胞」と、その訓練所「胸腺」の引退が一番大きい!
免疫の主役ともいえるのが、ウイルスに感染した細胞や、がん細胞を直接やっつけるT細胞。このT細胞が一人前になるための「訓練所」が、私たちの胸にある胸腺(きょうせん)という臓器です。
ところが、この胸腺、悲しいことに思春期を過ぎると、だんだん小さく縮んで機能が衰えていってしまうんです。
* 新しいT細胞が作られなくなる: 胸腺が衰えると、新しいT細胞(ナイーブT細胞)がほとんど作られなくなります。つまり、これまで出会ったことのない新しいウイルスや細菌に対して、体がスムーズに対応できなくなるわけです。
* T細胞のパワーダウン: 古いT細胞ばかりになってしまうので、病原体を見つけたり、増殖したりするパワーも落ちてしまいます。
* 慢性的な炎症の原因に: さらに困ったことに、古くなったT細胞は、体に炎症を起こす物質をたくさん出すようになるんです。これが続くと、体の中で常に小さな火事が起きているような状態になり、免疫力がさらに下がるだけでなく、いろんな病気の原因にもなってしまいます。(これを「インフラマエイジング」なんて呼ぶこともあります)
2. 抗体を作る「B細胞」もちょっとお疲れモード
細菌やウイルスを攻撃する「抗体」を作ってくれるのがB細胞です。これも年齢とともに、新しい病原体に対する抗体を作る能力が落ちてきます。昔かかった病気には対応できても、初めての感染症にはなかなか抗体が間に合わない、なんてことが起こりやすくなります。
3. 「自然免疫」の初期防御も手薄に…
私たちの体に最初に侵入した敵を真っ先に攻撃してくれるのが、生まれつき備わっている自然免疫です。マクロファージやNK細胞といった細胞がその代表ですが、これらも年齢とともに、敵を見つけたり、食べて処理したり、直接攻撃したりする力が少しずつ衰えてしまいます。
「免疫の老化」は、人類が生き残るための「進化の戦略」だった!?
さて、なぜ私たちの体が、このように免疫システムを「老化」させてしまうのでしょうか?これは決して「体の故障」という単純な話ではなく、実は壮大な進化の戦略が隠されていると考えられています。
ちょっと不思議に聞こえるかもしれませんが、これは「人類の遺伝子を次世代に最大限残すため」という、生物としての究極の目標に関係しているんです。
「子孫を残す」ことが最優先!体は「使い捨て」!?
一番有力なのが「使い捨てのソマ理論(Disposable Soma Theory)」という考え方です。
想像してみてください。私たちの体は、生きていくために莫大なエネルギーを使っています。特に、病原体と戦い続ける免疫システムは、とんでもない「コスト」がかかるんです。
この理論では、生物は限られたエネルギーを、「子孫を残すこと」に最も多く投資すると考えます。若い頃、つまり子孫を残せる期間は、病気にならないように免疫システムを強力に保ち、生き残ることに全力を注ぎます。
でも、一度子孫を残して「役割」が終わると、どうでしょう?免疫システムのような「高コスト」な部分に、いつまでもエネルギーをかけ続ける必要がなくなってくるわけです。
つまり、体は「生殖を終えたら、もうそこまで維持にお金をかけなくてもいいや」とばかりに、免疫システムへの投資を減らしていく。その結果、免疫力が自然と低下していく、という考え方なんです。
若さの代償?「諸刃の剣」だった免疫力
他にも、「多面的発現(Antagonistic Pleiotropy)」という面白い考え方もあります。これは、「若い頃にはすごく役に立つけど、年を取るとかえって悪さをする遺伝子」がある、という話です。
例えば、若い頃に感染症と戦うためにものすごく活発だった免疫システムが、長い期間働き続けるうちに、細胞を消耗させたり、先ほど話したような慢性的な炎症を引き起こしたりして、結果的に年老いてからの免疫力低下につながる、という可能性も考えられます。つまり、若いうちの「最高のパフォーマンス」の裏返しが、年をとってからの「免疫の老化」なのかもしれません。
免疫の老化は避けられない?でも、対策はできる!
このように、免疫力の低下は、人類が子孫を残すために最適化されてきた、進化の過程の「名残り」とも言えます。まるで、世代交代のためのバトンタッチのようなものですね。
もちろん、この免疫の老化を完全に止めることはできません。しかし、だからといって諦める必要はありません!
バランスの取れた食事、適度な運動、質の良い睡眠、そしてストレスを上手に管理する。これらの健康的な生活習慣は、免疫システムの老化のスピードを緩やかにし、私たちの体を長く元気に保つための強い味方になってくれます。
「もう年だから…」と諦めずに、できることから始めてみませんか?
参考サイト
T細胞の老化と免疫老化 : ライフサイエンス 領域統合レビュー
Medical Diagram 116 免疫老化の法則 | ファーマスタイルWEB
老化: 使い捨ての体理論 (Disposable soma theory)
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2010/04/2010_seimeitohananika_16.pdf