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【マーケティング編】広告だけじゃない!スバルの巧みな「コミュニティ戦略」とは?

「スバルが売っているのは、ただの『鉄の箱』ではない」

もしあなたがスバルのオーナー、あるいは熱心なファン、通称「スバリスト」に話を聞く機会があれば、きっと同じような答えが返ってくるはずです。彼らにとってスバル車は、単なる移動手段ではなく、人生を共に歩むパートナーであり、自分の価値観を体現する存在なのです。

前回の記事では、アウトバックがいかにアメリカ人のライフスタイルに合致しているか、その製品力に迫りました。しかし、スバルの成功は優れた製品力だけで成し遂げられたわけではありません。

そこには、顧客を「ファン」に変え、強固な「コミュニティ」を築き上げる、極めて巧みで心に響くマーケティング戦略が存在します。今回はその裏側に迫ってみましょう。

 

"Love." すべては、この一言から始まった


www.youtube.com

2008年、スバルはアメリカで歴史的な広告キャンペーンを開始します。それが、今やブランドの魂ともいえる**「Love. It's what makes a Subaru, a Subaru.(愛。それがスバルを、スバルたらしめるもの)」**です。上のyoutubeはその当時のスバルのコマーシャルです。

当時、自動車の広告といえば、走行性能の高さや燃費の良さ、デザインの美しさを訴求するのが当たり前でした。しかし、スバルは違いました。彼らは、自社の車の根底に流れる哲学を「Love(愛)」という、あまりにも普遍的で、情緒的な言葉で表現したのです。

この「愛」とは、決して漠然としたものではありません。

  • 子供の成長を後部座席で見守る**「家族愛」**

  • 年老いた愛犬を大切に運ぶ**「ペットへの愛」**

  • スキーやキャンプへ向かう道中の**「自然への愛」**

  • そして、一台の車を長く大切に乗り続ける**「スバルへの愛」**

スバルは、車を「家族の一員」として描き、顧客の人生の様々なシーンに寄り添うパートナーとして描きました。これにより、スバル車は単なる工業製品から、顧客一人ひとりの物語が詰まった特別な存在へと昇華したのです。このキャンペーンは、スバルのブランドイメージを決定づけ、後に続くすべての戦略の礎となりました。

 

ニッチ市場への先行投資 ―「誰からも愛されようとしない」勇気

 

この「Love」キャンペーンが成功した背景には、スバルが長年かけて築き上げてきた、特定のコミュニティとの深い絆があります。多くの企業が最大公約数のマス市場を狙う中、スバルはあえて「ニッチ」と呼ばれる市場に深く、そして誠実に向き合い続けました。以下のようにスバルがニッチェをターゲットにしたという記事があります。

priceonomics.com

 

1. LGBTQ+コミュニティへの慧眼

 

今でこそ多くの企業が多様性を尊重し、LGBTQ+コミュニティへの支持を表明していますが、スバルはその先駆者でした。彼らがこのコミュニティに向けた広告を始めたのは、まだ社会的な偏見も強かった1990年代のことです。

当時の広告には「It's Not a Choice. It's the Way We're Built.(それは選択ではない。私たちはこう作られている)」といった、車の構造と人のアイデンティティをかけた、ダブルミーニングの秀逸なコピーが使われました。

これは、他社がためらう中で踏み出した、非常に勇気ある一歩でした。スバルは、自分たちを理解し、受け入れてくれるブランドとして、コミュニティから絶大な信頼とロイヤリティを獲得します。この誠実な姿勢は、「スバルは自分たちの価値観を分かってくれる」という強い絆を生み出したのです。

 

2. ペット愛好家との揺るぎない絆

 

アメリカにおいて、犬は家族同然かそれ以上の存在です。そのインサイトをスバルは見逃しませんでした。そして生まれたのが、あのユニークな**「Dog Tested. Dog Approved.(犬がテストし、承認しました)」**キャンペーンです。

CMでは、ゴールデンレトリバーの一家がスバル車を運転し、人間の若者のようにドライブに出かける様子がユーモラスに描かれます。犬の視点から、乗り心地の良さや安全性を「承認」するという奇抜なアイデアは大きな話題を呼びました。

このキャンペーンにより、「スバル=犬に優しい車=家族に優しい車」という強力なブランドイメージが確立されます。愛犬家たちはこぞってスバルを選び、SNSにはスバル車と愛犬が一緒に写った写真が溢れかえるようになりました。スバルは、巧みにペット愛好家という巨大なコミュニティの心を掴んだのです。スバルアメリカがSubaru Loves Petsというホームページを出しています。

www.subaru.com

 

"Share the Love" ―「愛」を分かち合う社会貢献

 

スバルのコミュニティ戦略の集大成といえるのが、2008年から毎年続く**「Share the Love(愛を分かち合おう)」**イベントです。

これは、年末のキャンペーン期間中に顧客が新車を購入またはリース契約すると、スバルがその顧客に代わって250ドルを慈善団体に寄付するというプログラムです。顧客は、全国規模の4つの団体(動物愛護、環境保護、医療支援など)と、各ディーラーが選んだ地元の団の中から寄付先を選ぶことができます。

この仕組みの巧みさは、単なる企業の社会貢献活動(CSR)に留まらない点にあります。顧客は、車を買うという消費活動を通じて、社会貢献に参加する「当事者」になるのです。自分が選んだ団体に、スバルが寄付をしてくれる。これにより、顧客は「良い買い物をした」だけでなく、「社会に良いことをした」という満足感(Feel-Good)を得ることができます。

これまでにこのイベントを通じて寄付された総額は、実に2億5000万ドル(約375億円)を超えています。顧客を巻き込み、ブランドへの好感度とロイヤリティを劇的に高める、まさに「三方よし」の仕組みです。以下は、スバルが愛を大事にしているというYouTubeの広告です。


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結論:スバルが売るのは「価値観」という名のエンジン

 

スバルのマーケティングを紐解いていくと、彼らが売っているのは4WDシステムや安全性能といった機能だけではないことが分かります。

彼らは、**「私たちは、家族を、ペットを、自然を、そして地域社会を愛する人々を応援します。あなたもそうですよね?」**と、常に顧客の価値観に語りかけているのです。

この問いかけに「Yes」と答えた人々が、熱狂的なスバリストとなり、強固なコミュニティを形成していく。製品力という力強いエンジンに、「価値観」という名のもう一つのエンジンが加わることで、スバルというブランドは他社にはない圧倒的な推進力を得ているのです。

スバルの成功は、モノが溢れる現代において、企業が顧客とどう向き合うべきか、その一つの答えを示しているのかもしれません。

 

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参考サイト

techsuite.biz

wacul-ai.com