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漢詩「上邪」の誓いに込めた意味とは?中国ドラマ『大唐流流』と究極の愛の詩

中国の宮廷ラブ史劇『大唐流流~宮廷を支えた若き女官~』を観ていた時のこと。 登場人物が口にした、ある情熱的な愛の詩に、私はすっかり心を奪われました。

それは、およそ2000年前、中国・漢の時代に詠まれたとされる一編の詩でした。一体どんな言葉が、現代の私たちの心をも、これほどまでに揺さぶるのでしょうか。

今回は、この究極の愛の誓い「上邪(じょうや)」の世界を、ドラマの物語と共に深く味わってみたいと思います。

 

天地が覆ろうとも、愛は変わらない ─ 漢詩「上邪」

 

まず、その詩の全文をご覧ください。これは『楽府詩集』という書物に収められている、作者不詳の民謡詩です。一人の女性が、自らの強い愛を天に誓う、非常に情熱的な内容です。

原文(白文): 上邪 我欲與君相知,長命無絶衰。 山無陵,江水為竭, 冬雷震震,夏雨雪, 天地合,乃敢與君絶。

 

読み下し文: 上(かみ)よ、 我は君と相知りて(愛し合い)、長く命(いのち)あらんとも、絶え衰えじ。 山に陵(みね)なくなり、大河の水が尽き、 冬に雷がとどろき、夏に雪が降り、 天地が一つに合わさるとも、我は君と絶えまじ。

 

現代語訳: 「天よ! 私は、あなたと深く愛し合うことを誓います。この想いは、永遠に色褪せることはありません。 たとえ、高くそびえる山々が平らになろうとも、 たとえ、滔々と流れる大河の水が枯れ果てようとも、 たとえ、あり得ないことに、冬に雷が轟き、夏に雪が舞い降ろうとも、 そして、天と地がひっくり返って一つになろうとも、 その時ですら、私はあなたへの愛を捨てることなど、決してありません。」

 

この詩の、凄まじい表現力

 

この詩の面白さは、「絶対にあり得ないこと」を5つも立て続けに列挙する、その大胆な発想にあります。 「山がなくなる」「川が枯れる」「冬の雷」「夏の雪」「天地の合体」。 そんな天変地異がすべて同時に起きたとして、その時になってようやく「あなたと別れることを考えてあげてもいいわ」とでも言うような、圧倒的な決意と、少しばかりのユーモアさえ感じさせます。 「天地がひっくり返っても、私の愛は変わらない」。これほど強く、情熱的な愛の誓いが、2000年も前に、一人の女性によって詠まれたことに、ただただ圧倒されるばかりです。

 

なぜ、この詩が『大唐流流』で使われたのか?

 

では、なぜこの「上邪」の詩が、ドラマ『大唐流流』で印象的に使われたのでしょうか。 このドラマは、唐の初期、第2代皇帝・太宗の時代を舞台にした、壮大な宮廷ラブ史劇です。

 

大唐流流

 

広州の刺繍商家の娘・**傅柔(ふじゅう)**と、長安一の放蕩息子と噂された将軍家の三男・盛楚慕(せいそぼ)。全く異なる世界に生きていた二人が出会い、恋に落ちますが、彼らの前には身分違いの壁や、宮廷の権力闘争といった、数々の障害が立ちはだかります。 『瓔珞』のプロデューサーが手掛けただけあり、華やかな衣装や美術はもちろん、リー・イートン演じる傅柔が自立した女性として成長していく姿や、シュー・カイが魅力的に演じる盛楚慕の人間的な成長も見どころです。

まさに、次々と困難が襲いかかっても、決して揺らぐことのない二人の愛の強さを象徴する言葉として、「上邪」の詩は、このドラマにこの上なくふさわしいものだったのです。

 

まとめ:時代を超える「愛の言葉」

 

2000年前の無名の女性が詠んだ、究極の愛の誓い。 その情熱的な言葉は、現代の私たちが観るドラマの中で、登場人物の心を代弁し、私たちの心をも揺さぶります。

良い言葉、良い詩というものは、こうして時代や国境を超えて、人々の心に生き続けるのだと、改めて感じさせられました。最後に、この詩への感動を込めて、私なりの一句を。

 

共にあり 永遠の愛 誓い合い 生死(しょうじ)の苦海(くかい) 静かに進む

(※参考:簡体字での表記) 上邪 我欲与君相知,长命无绝衰。 山无陵,江水为竭,冬雷震震,夏雨雪,天地合,乃敢与君绝。