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日々の雑感

龍樹菩薩と念仏:親鸞聖人の高僧和讃から学ぶ

親鸞聖人が仰いだインドの至宝:龍樹菩薩の「高僧和讃」を学ぶ

親鸞聖人が著された『高僧和讃』には、インド・中国・日本の七人の高僧(七高僧)の徳を讃える歌が収められています。今回は、その第一人者であるインドの龍樹菩薩(りゅうじゅぼさつ)を讃えた「龍樹讃」を紐解いていきましょう。

【龍樹菩薩(ナーガールジュナ)プロフィール】

2世紀〜3世紀頃、南インドバラモン階級に生まれる。大乗仏教の理論的基礎を築き、「八宗の祖師」と仰がれる仏教史上最高の思想家の一人。浄土真宗では、阿弥陀如来の本願を正しく伝えた「七高僧」の第一祖として尊崇されています。

1. 龍樹讃 第一首:念仏の道を勧める

本師龍樹菩薩は
『智度』『十住毘婆沙』等 つくりておほく西をほめ
すすめて念仏せしめたり
【原文の訳】 私たちの根本の師である龍樹菩薩は、『大智度論』や『十住毘婆沙論』などの書物を著して、広く西方浄土の素晴らしさを讃え、私たちに念仏の道を勧めてくださった。
【詳しい解説と魅力】

龍樹菩薩は、大乗仏教の根幹となる「空(くう)」の思想を確立した中観派の祖として知られています。親鸞聖人は『正信念仏偈』の中でも、龍樹大士が「楽に浄土に行ける道(念仏)」を伝えたことを強調されています。

  • 大智度論』と「空」: 膨大な『大般若経』の解説書であり、すべての物事は相互依存(縁起)の中で成り立っているという「空」を体系化しました。詳細は 「仏教の空とは?」 をご覧ください。
  • 中観思想(中道): 「有る」にも「無い」にも偏らない真実のあり方を「中道」と呼び、お釈迦様の教えを論理的に追求しました。

2. 『十住毘婆沙論』:誰もが救われる「易行道」の発見

龍樹菩薩は難解な哲学を説くだけでなく、修行が困難な民衆のために、誰もが救われる道を指し示しました。それが『十住毘婆沙論』の「易行品(いぎょうほん)」です。

【ここがポイント:難行から易行へ】

龍樹は、仏道には二つの道があると考えました。

  • 難行道: 厳しい修行を自力で完遂し、悟りを目指す険しい陸路のような道。
  • 易行道: 仏の慈悲を信じ、その名を称えることで救われる、船に乗って海を行くような安楽な道。

この「阿弥陀仏の念仏こそが易行である」という教えは、後に親鸞聖人が浄土真宗を開く大きな拠り所となりました。
→ 真宗通解:易行品解題(外部リンク)


3. 龍樹讃 第二首:お釈迦様の予言

南天竺に比丘あらむ
龍樹菩薩となづくべし
有無の邪見を破すべしと
世尊はかねてときたまふ
【原文の訳】 「(私の死後)南インドに一人の比丘(修行僧)が現れるだろう。その名は龍樹菩薩と呼ばれる。彼は『有る』『無い』という偏った見解(有無の邪見)を打ち破るだろう」と、お釈迦様は生前(『楞伽経』の中で)予言されていた。
【解説:予言された救世主】

お釈迦様が入滅されてから約700年後に出現した龍樹菩薩。その登場は偶然ではなく、お釈迦様によって約束されていたことだと親鸞聖人は讃えています。

有無の邪見(うむのじゃけん)とは:
「物は不変に存在する」と固執する(有見)ことや、逆に「死ねばすべて無になり、因果もない」と投げ出す(無見)こと。龍樹はこの両極端な誤りを「空」の論理で打ち破り、仏教の真髄である中道を示しました。

今日の一句

この一年喜び悲しみ抱きしめて ただ頼むなり南無阿弥陀仏