生きてゆくとことんまでを生き抜いてそれから先は君に任せる
短歌の入門書を読んでいたら上記の歌が目に止まり、感動しました。解釈は読む人ごとにいろいろあるでしょう。私は仏教に興味があるので、「それから先は君に任せる」というところが、「死んだ後は阿弥陀仏に任せる」と読めました。これは、阿弥陀仏の信者のあるべき姿を表しているように感じます。この歌は、病床の中で作られた短歌の一つです。きっと後の世まで伝えられる和歌の一つになるでしょう。
この歌を作ったのは、歌人の河野裕子さんです。河野さんは、西本願寺系の高校、大学 (京都女子大)の出身です。河野さんは、夫の永田さんとともに若い頃より短歌を発表し活躍された日本を代表する歌人です。夫とともに宮中歌会始の選者も務められました。晩年は、乳がんを患われました。次のような仏教に関する歌も残っています。
寂光院を訪れた際の歌
みほとけよ祈らせたまえあまりにも短きこの世をすぎゆくわれに
寂光院は、京都大原にある天台宗の尼寺で、創建は聖徳太子と言われています。地蔵菩薩が本尊です。崇徳天皇の女官だった方や、平清盛の娘の建礼院徳子が晩年を過ごしたところです。建礼院徳子は、源平の戦いでなくなった子の安徳天皇や平家一門の菩提を弔って過ごしました。平家物語の大原御幸で、後白河法皇が建礼院徳子を訪問した故事で有名です。自身が没落してきて平家が滅亡する様子を仏教の六道になぞらえて語ったそうです。また、念仏三昧の暮らしをしていたそうです。
最後の歌
手をのべしあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が
若いころの歌集(森のように獣のやうに、1972年)からいくつか載せておきます。
夕闇の桜花の記憶と重なりてはじめて聴きし日の君が血のおと
たとへば君ガサツと落葉すくふように私をさらつていつてはくれぬか
ブラウスの中まで明るき初夏の日にけぶれるごときわが乳房あり
透明を重ねゆくごとき愛にして汝は愛さるることしか知らぬ
参考文献のリンク
短歌入門書、角川書店
河野裕子の歌集