月影

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【西行の言い訳が天才的】約束をドタキャン!女流歌人との恋の駆け引きを和歌で解説

偉大な歌人であり、ストイックな仏道修行者として知られる西行法師。しかし、そんな彼にも、約束をすっぽかしてしまった過去がありました

しかも、その後の言い訳が、あまりにも見事な一首の和歌だったのです

今回は、教科書には載らない西行の人間味あふれる一面と、平安の歌人たちが見せた知的な言葉の応酬を覗いてみましょう。

 

 

事件の始まり:月が明るい夜の「ドタキャン」

 

ある月夜のこと。当代きっての女流歌人**待賢門院堀河(たいけんもんいんのほりかわ)**は、西行法師が訪ねてくるのを待っていました。

西行は「必ず伺います」と約束していました。しかし、待てど暮らせど彼は現れません。

それどころか、後から「家の前を通り過ぎていきましたよ」という噂を耳にします。約束を破られた上に、素通りまでされた堀河。彼女は、このやるせない気持ちを、ユーモアと少しの恨みを込めて一首の歌にして西行に送ります。

西へゆく しるべと思ふ 月影の 空頼めこそ かひなかりけれ

(意訳:西へ向かうあなた(西行)の道しるべになると思っていた月の光(月影)ですが、それを頼りに待っていた私は、まったく馬鹿をみましたわ。)

「月影」は、単なる月の光だけでなく、仏の慈悲の象徴でもあります。堀河は「仏の道に進むあなたのしるべとなる月を信じて待っていたのに」と、彼の信仰心に絡めて、実に巧みに皮肉を言ったのです。

 

 

西行の「神言い訳」がこちら

 

さて、約束を破り、痛いところを突かれた西行。彼はどう返したのでしょうか。普通ならひたすら謝るところですが、西行は違いました。彼は、驚くべき一首で返答します。

立ち入らで 雲間を分けし 月影は 待たぬけしきや 空に見えけむ

(意訳:(あなたの屋敷に)立ち寄らずに雲間を進んでいった月の光(=私)は、もしかしたら、あなたが私を待っていない気配を空(=あなたの心)に感じ取ってしまったからかもしれません。)

なんと、「あなたが待っていないように見えたから、行かなかったんですよ」と、ボールを相手に投げ返したのです。

自分のドタキャンを棚に上げ、「あなたが原因です」とでも言いたげなこの返し。しかし、月の光を自身にたとえ、「雲間を分ける月のように、私にも色々と思うところがありましてね」という複雑な心境を匂わせることで、単なる言い訳を風流な一首へと昇華させています。

 

 

まとめ:天才歌人の人間らしい一面

 

この一連のやり取りは、『新古今和歌集』に並んで収められています。

約束を破りながらも、機知に富んだ歌で鮮やかに切り返す西行。そして、それに教養とユーモアで応じる堀河。彼らの関係性や、和歌が単なる芸術ではなく、高度なコミュニケーションツールであったことがよく分かります。

ストイックなイメージのある西行の、こんなにも人間らしい一面を知ると、彼の他の歌もまた違った味わいに見えてくるのではないでしょうか。

 

ところで、この和歌の相手である待賢門院堀河と、西行が出家する原因になったとされる伝説の女性・待賢門院璋子は、実は全くの別人だということをご存知でしたか?混同されがちな二人の関係と、当時の華やかな宮廷サロンの様子を、こちらの記事で詳しく解説しています。

【西行の恋の謎】待賢門院璋子と堀河は別人だった!混同されがちな二人の関係を徹底解説 - 月影

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